ぷらざINFO/信州人

平成29年度秋の叙勲 瑞宝中綬章/信州大学名誉教授  中沢 賢さん

1なかざわ まさる 1937年上田市生まれ 工学博士 信州大学繊維学部紡織学科卒業 高校教員を経て東北大学大学院工学研究科修了 昭和40年に信州大学繊維学部助手に就任 昭和49年〜助教授、昭和60年〜教授となり平成15年に定年退官

 

教えることが楽しくて教員に

両親を小学生の頃に亡くしていたので、幼少期は経済的に楽ではありませんでした。地元で自分の興味のあることが学べるという理由から信州大学繊維学部に入学。在学中、今でいう学習塾を開き中学生に数学や理科を教えました。次第に教えることがとても面白く感じるようになり、どうすれば子どもたちに理解してもらえるのか考えるのも楽しくなりました。教材を自作したり、子どもたちとサイクリングしたり、しなくてもいいのに家庭訪問もしました。「教えることが好き」という自分の特性に気が付いたのです。卒業後、同級生は繊維関係の企業に就職する中、どうしても学校の先生になりたかったため、「浪人してでも先生になりたい」という思いを伝え、長野県の高校教員として採用していただきました。
当時の日本は高度成長期の工業ブーム時代。飯田工業高等学校(現飯田OIDE長姫高等学校)機械科の教員になりましたが、自分が紡織科卒業だったため、機械の基本が多少わかるくらいで専門ではありません。前の晩に勉強して授業に臨むような毎日。「生徒のためにも学校のためにもよくない、生涯これでは情けない」と感じていた時、大学時代の恩師に大学院を勧められ、東北大学大学院で機械工学を学びました。大学院修了の年、母校に繊維機械科が新設され、恩師のもとで助手として働くことになりました。講師、助教授として勤め、教授になれたのも運が良かったから。時代の巡り合わせに恵まれ、信大や東北大の先生方に導いていただいたおかげです。

 

ページめくり機を開発

機械力学と制御工学を基礎として機械工学の幅広い領域で研究をしてきました。蛇の推進原理による移動ロボットの開発や、日本の独創的な紡績法「ガラ紡」のメカトロニクス化にも取り組みました。
日本機械学会のロボティクス・メカトロニクス部門で役員を務めていた時、「めくる」というテーマで学生たちと一緒に自動ページめくり機の開発を行いました。肢体不自由の画家・星野富弘さんが、自分で本をめくれず1日中同じページを眺めているということを知り、作りたいと思ったのがきっかけでした。人間がページをめくる指の動きを力学的観点から解明したもので、これは後に、坂城町の西澤電機計器製作所によって「ブックタイム」として市販され、2008年経済産業省の「今年のロボット」大賞で最優秀中小・ベンチャー企業賞を受賞。大学、地元企業、長野県、肢体不自由者など20の団体や個人が関わり、産学官が連携して社会的貢献度が高いものを生み出すことができました。

 

強い意志を持てば実現する

今回の授章では、近所の方、趣味の絵の仲間、親戚と多くの方が我が事のように喜んでくれました。それがうれしくて授章の実感となっています。
自分自身を振り返ると、「強い意志を持って臨めば実現する」ということが人生の中で何度もありました。若い人には夢を持ってもらいたいと思っています。好きなことをやっていると自分の特性は何か、本当にやりたいことは何かが見えてくるのではないでしょうか。

2       3