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第65回森林技術賞受賞 東京農業大学 教授      日本森林保健学会 理事長 上原 巌さん

うえはら いわお 1964年長野市生まれ 東京農業大学農学部林学科卒業 長野県内の高等学校に教員として勤務 社会福祉施設での勤務や不登校児へのカウンセリングを通じ森林が持つ保健休養効果に着目 2011年東京農業大学地域環境科学部森林総合科学科教授に就任 現在までに出版した本は中国語や韓国語にも翻訳 2020年第65回森林技術賞受賞

 

森林が持つ力に魅了されて

長野市の実家の裏山には江戸時代から善光寺の修理材として保存されてきたケヤキの林があります。樹齢300年を超えるケヤキが育成されている林が身近にあることで、小さい頃から森林の持つ力をなんとなく感じていたかもしれません。実際に森林、林学を志すようになったのは長野吉田高等学校に進学し山岳班に所属した1年生の時です。各地の山々を登り、自然に親しむうちに、将来は森林、樹木に関連した仕事に就きたいと思うようになりました。

東京農業大学農学部で林学を学び、大学卒業後は、長野県北部の木島平村にある下高井農林高等学校に勤務。地元の養護学校の生徒との森林浴や、不登校の生徒と森の中でのカウンセリングを行いました。そこで森林の保健休養効果に興味を持つようになり、さらに研究を深めるため信州大学大学院へ進学しました。大学院に通いながら松川町の社会福祉施設「親愛の里松川」の職員として勤務し、障がいのある利用者と地元の山林でほぼ毎日活動をしていましたが、それらの経験が今日の森林療法の基礎を作ってくれています。

 

森林療法を先駆的に研究

森林内で過ごすことで心の癒しが得られ、生活習慣病など病気になりにくい体づくりにつながります

1999年、日本林学会において初めて「森林療法」を提唱しました。森林の保健利用・休養利用は以前より注目を集めていましたが、森林環境を把握し、作業療法へ森林保育作業を取り込むこと、対象者の身体的・精神的変化などを評価することによって森林作業の保健休養効果を実証することができました。以来、森林療法は、Forest Therapy(英語)、森林療癒(中国語)、Waldtherapie(ドイツ語)として、世界中に広がっています。そして今年、森林・林業に功績があった人に贈られる「森林技術賞」受賞という栄誉をいただくことができました。このような日が来るとは夢にも思っていませんでした。

 

信州の森林を世界へ

近年は研修会の講師として世界中に出かけています。昨年はフィンランドや中国、韓国の大学にも赴きました。森林と人間の関わりは基本的に世界中どこでも一緒です。特に今は世界中がコロナ禍の生活となっているため、森林、みどりに対する人々のニーズはとても高まっていると感じます。

身近な森林を活用した健康増進の普及活動は近年アジアや欧州にも拡大

森に恵まれた日本の中でも、信州にはとりわけ多様な樹種に恵まれた森があり、例えば、雪深い北の飯山にはブナ林、温暖な南の伊那谷には茶畑まであります。これから国内の移動が元通りになってくれば、大勢の人が再び信州を訪れる日が来ると思いますが、その目的の1つが信州の森であることに間違いはありません。信州には、昔からの森があちこちにまだ残っています。精神的なストレスの軽減や健康増進への期待は大きく、現代人の生活をリセットしてくれることでしょう。

現在は自然豊かな軽井沢で生活しています。とりわけ佐久を含む東信地域は、活火山の浅間山、国際的な避暑地の軽井沢をはじめ、上田城や小諸城址など歴史的な遺産もあり、自然と観光が融合した地域だと思います。これからもこの東信、信州の魅力が国内はもとより、世界中の人に愛されることを願っています。