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彫刻家 小林 一夫さん

小林 一夫●彫刻家
小林 一夫さん

1951年小諸市生まれ 野沢北高、信州大教育学部卒 92年・00年・07年一陽展野外彫刻賞受賞 06年中日芸術家交流展 10年Art Shanghai2010出展など、パブリック・アートや国内外の企画展で活躍 一陽会運営委員

 

 

教員と制作を両立させて

彫刻家を志したのは、高校生の時。野沢北高時代の担任が彫刻家で、進路を決める上で大きな影響を受けました。叔父も彫刻家だったので、さまざまな縁が重なったのでしょうね。信州大の教育学部美術科に進み、学生時代は人物の塑像など具象的な作品に多く取り組んできました。当時は友人や知り合いをつかまえては、「モデルになってくれ」と頼み回っていましたよ。
卒業後は美術教諭として県内の高校に勤め、55歳で退職するまで彫刻家との二足のわらじを履き続けてきました。美術大出身ではないので、美術界でのつながりを自分でつくっていかなくてはならず、その点は苦労しましたが、今となっては、それがかえって良かったのかもしれません。他人の才能を気にすることなく、自分の決めた道を進んでこられましたから。才能のあるなしは自分では分かりませんが、教員と両立して制作を続けてこられたことは、才能のひとつだったと思っています。

 

石を彫ることの面白さ

元麻布ギャラリー展示作品「海の気森の気」石彫と出会ったことは、制作を続けてこられた大きな原動力です。石という素材はものすごく硬いもの。自分の意志が石より硬くないと彫れないので、常にぶつかってくる素材とのせめぎ合いを要求されるのです。この、なまじっかな気持ちでは彫れないところが、石彫の難しさであり、面白さ。粘土を使った彫塑とは、まったく違う世界を表現できるのも魅力です。
これまで30年以上石彫を続ける中で、多いのは自然をテーマにしたもの。特に意識はしていませんが、小諸という自然豊かな場所に生まれ、育った原風景にも影響を受けているのでしょう。自然そのものではなく、自然から生まれ出るエネルギーをかたちに表したいと、常に思っています。たとえば伸びてゆく森の木々の気や、春の芽吹き、風。作品が置かれた空間も含め、すべてをひとつの作品として、見る人に自由に感じてもらえると嬉しいですね。
今年に入って佐久市内のギャラリーで書道家の方とのコラボレーション展示を行いましたが、こうした異分野の芸術と組み合わせた空間づくりも面白く、お互いに良い影響を受けたと思います。

 

海を越えて交流を深める

自宅の敷地内にあるアトリエで教員を辞め、今は1日中制作に専念できる環境にいます。仕事をするのはもっぱら日のある時間。基本的に肉体労働なので、夜は休むようにしています。はじめのうちは土日を休日にしようと考えていましたが、気が付くと毎日アトリエにいます。
2006年の中日芸術家交流展をきっかけに、上海や香港、台湾での展示が増えたので、中国語の勉強も日課に取り入れています。今になって語学を習得するのは大変。高校時代より真剣に勉強している気がしますよ(笑)。時には家族で中国旅行を楽しんだり、逆に中国からの若いアーティストをホームステイで受け入れたりもしています。外国で作品を発表することは、国内での展示とまた違い、いい高揚感があってワクワクしますね。