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演出家・写真家 星野 和彦さん

東京から軽井沢へsnb01

1950年代のラジオドラマ全盛期に放送の現場に入って以来、メディアの世界に40年以上身を置きました。テレビ黎明期にはNET(現テレビ朝日)のテレビマンとして、ドラマ、音楽番組、モーニングショーなど数々の人気番組を手掛けました。

演出家として独立してからはパリ・東京・ニューヨークでのファッションショー、全国各地の博覧会のプロデュース、オペラ「青獅子」「おしち」など、高度成長の波に乗って次々に誕生した新メディアの先端をがむしゃらに走り続けました。

その情熱が燃え尽きつつあるのを感じたのが、バブル崩壊の頃でした。自宅があった六本木の街の堕落した光景にも失望し、1988年、中軽井沢の別荘地「三井の森」に拠点を移しました。あのまま東京にいたら、間違いなく身体を壊していたでしょう。今こうして健康な80代を迎えられたのは、緑の梢から降り注ぐ極上の空気のおかげです。軽井沢に出会って以来、この自然のご馳走への感謝を忘れたことはありません。

 

ルーブルに写真作品を出展

 snb021960年に「ラ・ルビュー・ジャポネーズ」演出のためパリのムーラン・ルージュに招かれ、人生において初めての海外生活を、モンマルトルのホテルの最上階で過ごしました。部屋の窓から椿姫の墓を見下ろし、ベル・エポックの面影がのこる道筋をぬって仕事場に通う……、この夢のような1年が、その後の人生にずいぶん影響を与えてくれました。

昨年「巴里・いまむかし」と題した写真展を東京銀座で開きました。そこで発表した “写真による印象派”と名付けた作品群がリサーチャーの目にとまり、今年6月ルーブル美術館のカルーゼル・デュ・ルーブルで開かれた「アート・ショッピング2015」に出展する機会に恵まれました。絵画のように見えるでしょう?パソコンで加工していると思われがちですが、デジタルカメラ自体の機能を使い、露出やホワイトバランスを調整して撮影したそのままです。現地では「絵画的で、フランスを感じさせる作品」と評されました。

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文化が先導する観光地に 

パリでは今やファッションに代わりアートが社会の主役になっています。ルーブル美術館も古色蒼然とした権威を脱ぎ捨て「これからはアートがフランスを先導する」といわんばかりの進化ぶりに、芸術大国の底力を見ました。

世界的観光地の背景には豊かな文化が息づいています。軽井沢も外国人宣教師やショッピングだけの町ではありません。中山道の街道史、火山灰地を耕した先人の苦労、落葉松林の風景を創った雨宮敬次郎の努力など、誇るべき宝が随所にあります。それを丁寧にすくい上げ、パワーを注ぎ、美しい風土に織り上げたい……、この25年間の軽井沢ライフでひたすら願い続けてきたことです。

いま、2007年に発表した楽曲「軽井沢組曲・美しい村」(作詞 星野和彦/作曲 若松歓)の再演を考えています。天明の大噴火、浅間三宿の風景、大日向の開拓など軽井沢千年の喜怒哀楽を謳いあげた、最愛の自然風土へのオマージュです。