ぷらざINFO/信州人

映画監督 鶴岡 慧子さん

入院がきっかけで医師を志すsnb01

母は陶芸家、父はイラストレーター。小さい頃は粘土や絵を描くことが遊びの中心にあり、ものをつくることがごく当たり前の環境で育ちました。また、ものづくりを仕事にしている人が身近にいたため、映画をつくることを将来の仕事にすることも、特別だとは思いませんでした。

映画監督になりたいと思ったのは小学生のときです。劇場へ行ったり、父が持っている映画のビデオを見せてもらったりするうちに、映画を観ることが楽しみになりました。そんな日々の中で、自分の表現方法は映画だと感じるようになったのです。上田高校時代は映画班がなく、演劇なら何か共通するものがあるだろうと、裏方志望で演劇班に入りました。これがすごく楽しくて、のめり込んでしまうほどでした。

大学に進学し、映画を学び、映画監督になる方法はわからないけれど、「一生懸命つくれば何かしら拓(ひら)けるものがあるかも」という漠然とした状態で撮り続けました。時間・労力・お金のすべてを注ぎ込んでつくったのが「くじらのまち」です。PFF(ぴあフィルムフェスティバル)での受賞や海外の映画祭での上映など、功績を残せたことは嬉しく思っています。

 

地元・上田がロケ地snb05

 公開中の作品「過ぐる日のやまねこ」は、田舎の街が舞台です。都会に出ていった時子と田舎から出て行きたいと思っている陽平。別々に過ごしてきたふたりがばったり出会い、数日間をともに過ごし、お互いに何かを得ていくという物語です。

上田を舞台に脚本を書いたのではなく、田舎を舞台にした結果、故郷の上田が思い浮かび、ロケ地になりました。信州上田フィルムコミッションに全面的に協力していただきましたが、映画づくりに情熱を持っている上田という街で生まれ育ったことは、私の強みのひとつだと感じています。力を貸してくれる方がたくさんいらっしゃるので、作り手としてこんなにラッキーなことはないと感謝しています。

菅平でも撮影をしました。梅雨が明けない時季に加え、山の上なので天気予報があってないようなもの。スタッフの皆さんは大変な思いをされたと思います。雨が降ったために画面がキラキラしたり、撮影が押して夜に撮ったために不思議な空気感が出たりと、結果的にはハプニングも栄養になったような気がしています。

snb04

映劇に足を運んでほしい

 今回上映をしていただく上田映劇は、幼い頃父に連れられて通った思い出の場所です。最初に映画を観たのもこの劇場で、「耳をすませば」と「学校の怪談」の2本立てを、母と姉と妹の4人で観に行きました。「学校の怪談」はとても怖かったですが、とにかく楽しかった記憶があります。そんな特別な場所で、記念すべき劇場デビュー作を上映していただけることになり、「こんなに嬉しいことがあって良いのだろうか」という思いでいっぱいです。上田映劇は、人の記憶に残る、味わい深く素敵な空間なので、訪れるだけでも意味のある場所です。この上田映劇で、「過ぐる日のやまねこ」を観たということが多くの人の心に残っていただければと思います。