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平成28年度「信州の名工」受賞・印章彫刻工 大柄 富義さん

sin01おおがら とみよし 1958年小諸市生まれ 横浜印章職業訓練校卒業 小諸市判光堂印舗店主 長野印章業組合連合会会長歴任 一級印章彫刻技能士 平成28年度「信州の名工」(卓越技能者知事表彰)受賞

 

仲間と切磋琢磨し技磨き

高校卒業後、横浜にある印章職業訓練校に進みました。表向きは家業を継ぐためでしたが、憧れの都会に出る手段のひとつという気持ちも自分の中にありました。印章組合で働きながら4年間学び、印刀(印章彫刻用の彫刻刀)などの道具を作ることから、逆さ文字の習得、字入れ、彫刻、書道などを勉強しました。印刀はすべて自分で鉄を研いで作ります。組合で受けた仕事をしながらの勉強だったので、毎日相当な数のはんこを彫りました。多い時は1年に1200〜1300本彫ったこともありました。生徒ははんこ屋の2代目がほとんどだったため、仲間と技術を競いあい、切磋琢磨する中で、はんこを見極める目が養われたように思います。

22歳で小諸に戻り、父が始めた「判光堂印舗」を継ぎました。仕事の傍ら、コンクールに出品して、全国の仲間と技を競いました。45歳の時には早彫りの達人としてテレビ番組にも出演。テレビで知り、凝ったはんこを作りに来てくれた人もいました。

 

得意なのは名前でつくるはんこsin02

注文を受けて作るはんこは、お客さまとの会話の中から好みのデザインをうかがい、書体の見本を見ながら文字を決めていきます。見栄えが良く迫力のあるものに仕上がるように、円の中にバランス良く入る配置を見極め、何度も書きかえながら、デザインを確定させます。一般的なものなら2〜3時間、凝ったものは1〜2日かけて彫りあげます。

銀行印は、名字ではなく、名前でも絵柄を入れたものでも使えますので、デザイン性の高いはんこをおすすめしています。凝ったデザインは自分自身作りがいがありますし、お客さまにも喜んでいただけます。特に女性は結婚して名字が変わっても使えるので好評です。

普段の生活の中でも、できるだけ三文判ではなく、手彫りのはんこを使っていただきたいという思いから、店頭では手彫りのものを中心に販売してます。「小林」「佐藤」など使う方の多い名字は、数種類のデザインを揃えるようにしています。

 

はんこは「一生の宝」

最近は、古文書の文字をまねて書く書道の練習もしています。大河ドラマで古文書を読むシーンを見たとき、あまりにも字がきれいで「自分でも書いてみたい」と思ったのがきっかけです。古文書のくずし字は、ひとつの文字に何種類もあるので、くずし字辞典をみながら解読しますが、文字変化と多様形に昔の人はすごいなと感心させられます。勉強のため月に1回、古文書を読み解く教室にも通っています。

sin03印章業界でも若い職人が育っています。その作品から技術の向上など成長を感じられることは嬉しく思います。

昔と違い、はんこもパソコンと機械で簡単に作れる時代になりました。でもパソコンの文字は見ればすぐにわかります。私の作った手彫りのはんこを持つ人が、どこかで押印し、その印影を目にした人にも印象に残るもの、誰に見られても恥ずかしくないものを作り続けたいと思っています。良いはんことは、何十年も残るその人の「看板」であり「一生の宝」だと思っています。