「月刊ぷらざ佐久平　平成26年1月号」掲載

アキレス腱断裂は、比較的一般的な外傷でありますが、
いざ受傷すると社会生活にかなり支障をきたします。
致命的な弱点の代名詞　「アキレス腱」アキレス腱断裂の診断とその治療法。
職場復帰、スポーツ復帰はいつできるのでしょうか？

 

医療法人　雨宮病院（☎0267-82-5311）　雨宮 雷太　院長

 

アキレス腱の由来

アキレスの名は、ギリシャ神話ホメロスのイリアドにでてくる英雄アキレウス（ギリシャ名）に由来しています。アキレスの母親はわが子を愛してその肉体を不死身にしようと、冥府の川ステュクスにまだ赤子であったアキレスの全身を浸しましたが、母親が足首を握っていたので、踵（かかと）の上の部分のみ生身のままで残ってしまいました。それがのちにアキレスの命取りになりました。トロイ戦争で彼はギリシャ軍に加わり、トロイ軍を打ち破って勇名をはせました。しかし、アポロの神から豪勇無双なアキレスの泣き所を教えてもらった敵将パリスは、弓でアキレスの踵の腱を射抜きました。さしも勇猛を誇ったアキレスもついに戦死してしまいました。そして、アキレスはその名を踵の腱に残し、この伝説からアキレス腱は“致命的な弱点”の代名詞となりました。

 

病態

アキレス腱断裂はスポーツ外傷として日常診療上、頻繁に遭遇する疾患で、好発年齢は30〜40代であり、50歳以上の年齢層にもうひとつ小さなピークがあります。男性に多い傾向があり、やや左側に多いようです。

レクリエーションレベルでのスポーツ活動で発症することが多く、スポーツ種目別では、サッカー、テニス、剣道、バレーボール、バドミントンでの受傷が多いです。

 

診断

自覚症状としては、「後ろからアキレス腱を蹴られた」と表現されることが多く、発症時は腱断裂音を聴取していることもあります。疼痛は比較的少なく、歩行可能な場合もあります。アキレス腱上には陥凹を触知できます。腹臥位で膝を90度屈曲させ腓腹部を強く把持しても屈曲しません（トンプソンテスト）。画像では超音波、ＭＲＩが有用です。

 

治療方針

治療は、保存療法（手術しない）と手術療法（手術する）に大別されます。

Ａ、保存療法
保存療法は、6～8週間の長期間ギプス固定が従来行われていましたが、近年では機能的装具を使用して早期からリハビリテーションを導入することで、早期の機能改善がはかられています。ギプス固定による下肢静脈血栓症の発生の予防にも早期運動療法は重要です。ただし、保存療法では筋力の低下をきたすことが多く、手術療法と比べ再断裂の確率も高いとされ、若年者で早期のスポーツ復帰、社会復帰、職場復帰を望まれる場合は手術療法を検討すべきです。

Ｂ、手術療法
手術療法は、ケースによりさまざまな縫合法がありますが、術後2週から足関節底屈位の保持のため取り外し可能なヒールが付いた装具を用い荷重歩行、足関節可動域訓練を行い、ヒール部分を徐々にはずし4～5週装着させたのち、社会復帰またはスポーツ復帰を目的としたリハビリテーションを行います。

 

 

アキレス腱断裂の職場復帰、スポーツ復帰はいつごろか？

職場復帰

職種の違い、社会生活、生活様式、治療法の違いなど複雑な要素が介在し、これらを明確に比較検討した報告はなく、結論は一様ではありませんが、休業期間は手術療法で約6週、保存療法で約8週という報告が多くあります。

 

スポーツ復帰

スポーツ復帰については、手術療法が保存療法より勝り、その期間は平均6～9か月後です。

しかし、スポーツ復帰に関して、ランニング開始で判断するか、スポーツ種目の参加で判断するか、完全なプレー可能を持って判断するかは論文により一定ではありません。

 
アキレス腱断裂は、比較的一般的な外傷でありますが、いざ受傷すると社会生活にかなり支障をきたします。スポーツ前の準備体操は、しっかりと行いましょう。

 

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