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亜鉛欠乏症って?ご存じ?

多彩な欠乏症の発見

 

2002年秋。私はふとしたことから「多くの医師が考えているよりも、遙かに多くの、多彩な症状の亜鉛欠乏症患者がいる」ことに気が付きました。約50年前に人の亜鉛欠乏症の存在が発見されて、文献的には、個々に、多彩な欠乏症状が報告されてきましたが、人体内にたった2〜3g含まれるという微量元素亜鉛の欠乏症は“稀にしか存在しない”ものとされ、主に、味覚障害と特殊な遺伝性疾患のみが医師や栄養学者達に注目されてきました。しかし、多彩な症状・疾患を重複して持つ多くの患者さんを、血清亜鉛値や亜鉛酵素の活性度の変化を測定する論理的亜鉛補充療法で治療をして、症状の変化を注意深く観察・追跡すると、次々と諸症状が軽快・治癒することから、これまで確かな治療法もなく対処されてきた多くの症状・疾患が、芋蔓式にそれぞれ皆、亜鉛欠乏によるものと推測されました。

 

多彩な亜鉛欠乏症状とは?

【味覚障害】ある日、突然味覚障害を自覚した人から、塩辛い味付けと家族に言われ受診した主婦や、旨味がわからないという人まで、種々の程度があります。

【食欲不振】仕方なく食べている人、空腹感がない人、最近小食になった人から拒食の人まで、定かな原因のない食欲不振はまず亜鉛欠乏症です。病院ではしばしば胃瘻を造設されて、大問題です。

【舌痛症など】いわゆる舌痛症、“にがい、渋い、ガサガサする”などの違和感、大部分のアフタ性口内炎、また、口角炎はほぼ全部、皮膚炎ではなく真皮・皮下組織の伸展性不良による亀裂です。

【褥瘡その他の皮膚症状・疾患】褥瘡は亜鉛欠乏による細胞分裂、結合組織や表皮の生成、蛋白質の代謝、免疫機能などの総合的な異常により生ずる典型的な皮膚の状態です。老人性掻痒症や掌蹠膿疱症、また、広範囲の慢性湿疹様皮疹などの種々の皮膚症状・疾患は、その詳細は不明ですが、亜鉛欠乏によるそれぞれの機能異常の組み合わせで発症し、【慢性の下痢、貧血、慢性疲労、精神状態の変化】も考えられます。

何故、多彩な症状が発症するのか?

亜鉛は生命に必須の元素で、生体内機能は主として、①蛋白質の構造維持因子として、②300余ともいう多くの酵素の補因子として、③細胞内外でのシグナル因子としてなどとまとめられています。例えば、ある酵素の活性ポイントに亜鉛の原子が1個入ると、その酵素活性が1000倍にもなるともいわれ、身体の種々の場での多彩な代謝が活性化されるなど、それぞれの場での亜鉛欠乏による機能不全の組み合わせで、多彩な症状・疾患が発症することが容易に予測され、その他にも、まだまだ、未知な機能不全もあり得ます。

 

何故、多くの医師は気付かなかった?

①微量のミネラルの不足などない、②群の基準値は個の正常値である、③たった一元素の不足からそんな多彩な症状・疾患が発症するはずがない、という医学の常識と現代の専門分化した臨床医療の現場で、「ヒトを全人的に診る習慣と視点の欠如」によるものなのでしょうか?

 

基礎的研究は?

亜鉛トランスポーター(亜鉛の生体内の出入口)のノックアウトマウスを作成する分子生物学的手法で、亜鉛の生体内機能を調べる研究が急速に進み、例えば、①骨、歯、皮膚の結合組織発生に関わる亜鉛の役割や、②免疫を司るB細胞の免疫機能への役割、③神経の疼痛刺激伝達抑制の役割などが続々と明らかになり、褥瘡の発症・治癒や種々の感染抑制、舌痛症発症への亜鉛の関わりの一部が見事に説明されました。今後も23種ある亜鉛トランスポーターの役割や諸代謝への亜鉛の関わりなどが次々と解明されていくことでしょう。

 

何故、亜鉛不足が生ずるのか?

旧北御牧村村民1431名をはじめ、長野県下での4000名を越える地域住民の血清亜鉛値測定の疫学調査から、1970年代頃の日本を正常と仮定すれば、現代の日本国民の30%以上が亜鉛欠乏の状態にあると推測される結果が得られ、特に加齢と共にその傾向が強く、高齢者は50%を超えると予測されます。過度なダイエット・偏食や食品添加物・薬剤、特に多剤服用による吸収障害、食生活の変化や農業・畜産業などの食糧生産にも問題があります。

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