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海外へ行く前にはご相談を 〜渡航先での健康を守るために〜

交通手段の発達に伴う健康リスクと、渡航先医療情報収集の必要性

その昔、航空機も自動車もなかった時代、旅をすることはまさに苦難の連続でした。travel(旅)の語源がtrouble(心配)だとする説が、それを裏付けています。昔の旅人は天候に翻弄され、様々な病気の影に怯えながら山を越え、海を渡って旅を続けました。

一方で現代は、天候を予測する手段や医療技術も進歩し、様々な交通手段も格段に発達しました。昔と比べ、遠距離への移動は安全で容易なものとなり、値段も安くなりました。いわゆるグローバル化が進み、世界中で人の移動がかつてないほど活発になっています。

このような背景のもと、日本でも海外旅行者の増加や企業の海外進出は目を見張るものがあります。日本から海外への渡航者は年々増加しており、2011年度は1700万人に上っています(長野県は17万人)。渡航先も以前のようにアメリカやヨーロッパばかりではなく、最近は中国や韓国、東南アジアなど多岐にわたっています。特に企業の出張者や駐在員の渡航先の2/3は開発途上国だと言われています。もはや海外渡航が珍しい時代ではなくなりました。 iga01

しかし容易になった分、海外渡航に伴うリスクは忘れられがちです。開発途上国に1か月滞在すると、約半数の渡航者が何らかの健康問題を起こし、約30%が下痢など実際の病気にかかり、約8%が病院に駆け込むと言われています。せっかく海外に行くのに病気の話なんて、という声が聞こえてきそうですが、渡航先で健康トラブルに見舞われると、予定していた仕事や観光スケジュールにも大きく影響します。稀ですが、緊急帰国が必要なケースもあります。

一般的に東南アジアや南アジア地域への渡航では、デング熱や腸チフス、日本脳炎に、アフリカではマラリアにかかるリスクがあります。ヒマラヤのトレッキングや南米の高地では高山病に注意しなくてはいけません。また多くの国では加熱の不十分な食べ物を摂取した場合にはA型肝炎の、犬などの哺乳類に咬まれた場合には狂犬病のリスクがあります。

また最近は中高年の海外渡航者も増加傾向ですが、心臓病や糖尿病など持病のある方にとっては、航空機搭乗も含む海外渡航自体が健康リスクとなります。

さらに渡航先の医療情報は刻々と変わります。例えば、今年に入ってからマレーシアではデング熱の流行があり、2月に入ってからアメリカやドイツでは一部地域で麻疹の流行がみられています。カリブ諸国でのコレラ流行も依然続いています。海外渡航に際しては、このような事前の渡航先医療情報収集が欠かせません。

 

渡航者外来の役割

渡航前に、世界各地の感染症情報や現地医療機関の情報提供、渡航先や活動内容に応じた予防接種や健康指導など、適切な予防対策をとることで健康リスクはある程度回避することができます。また持病のある方への英文診断書、海外留学や現地の学校へ入学の際に求められる英文予防接種証明書についても確認が必要です。

渡航前の健康指導目的に医療機関を受診することは欧米では浸透しており、その割合は渡航者の約50%と言われています。一方、日本で渡航前に健康指導を受けている渡航者の割合はわずか2%とされ、日本では健康問題と海外渡航の認識がまだまだ十分ではありません。

海外渡航をお考えの際は、かかりつけ医または、専門外来のある医療機関にご相談することをお勧めします。

◆問い合わせ先◆iga02

電話:0267−82−3131(佐久総合病院 国際保健医療科:内線542)