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在宅ケアの今とこれから

重い認知症や末期のがんであっても、可能な限り自宅で過ごし、畳の上でご家族に看取ってほしいと希望される方が増えています。このような患者さんに対して、医師が定期的に訪問して診療を行い、必要に応じて臨時に往診を行うことを在宅ケアと言います。訪問看護を活用しながら、在宅酸素療法や皮下輸液といったやさしく安全な医療を行うことで、満足度をより高めることができます。また佐久医師会では、今年度内に在宅でのお看取りに輪番制を導入する予定です。

 

当院における在宅ケiga01

てらおかクリニックでは、開業以来4年弱で、147名の患者さんに在宅ケアを行い、27名をお看取りいたしました。患者さんの平均年齢は88歳、主たる疾患を図1に示します。在宅ケアといっても、ご自宅で過ごされる方だけでなく、有料老人ホームなどにお住まいの方も含まれます。

 

自宅でもここまでできる

末期がんの患者さんの場合、強い痛みや呼吸困難、食事や水分不足といった症状への対応が必要になります。痛みに対して、最近では皮ふに麻薬を染みこませたパッチ製剤を貼り付けることで、嘔吐などの副作用にかかわらず目的を果たせるようになっています。また、呼吸苦に対しては在宅酸素療法が有用です。この場合、酸素ボンベではなく、空気中の酸素を濃縮する機械を利用するため、より簡便で安全に行えます。水分や栄養がとれない場合、希望によっては点滴も可能です。腹部の皮ふにプラスチックの管を差し込んで、ごくゆっくり行う皮下輸液を活用することで、体への負担も介護者への負担も軽減することができます。

 

たよりになる訪問看護

さまざまな状態の患者さんに、適切かつタイムリーに医療を提供するためには、訪問看護の利用が欠かせません。当クリニックの場合、全体の6割の患者さんに訪問看護を指示いたしました。訪問看護では患者さんの希望により24時間、随時サービスを受けることができます。清拭・更衣や口腔ケアといった基本的な身体介助はもちろん、浣腸などの排便処置、褥瘡(じょくそう)の治療や膀胱留置カテーテルの交換など、より専門的な医療行為も実施されます。最も大切なのは、患者さんの状態を観察し、必要に応じて主治医に報告して指示を受けることで、入院に準じた対応ができることです。

 

介護者が変化しているiga02

図2に147名の主な介護者の内訳を示します。以前は在宅ケアといえば、お嫁さんが面倒を見ていることが多かったのですが、今では1割に満たず、事情が随分変わってきています。かつてお年寄りが寝たきりになり、経口摂取もむずかしくなってきた場合、造設を希望されるご家族が多かった時期がありました。しかし最近は「延命治療は望まない」「自然な経過で看取ってほしい」と希望される方のほうが多い印象で、このことは主介護者の変化と無縁ではなさそうです。

 

自宅でのお看取りの現状

 147名の患者さんの内、亡くなったのは49名でした。うち自宅でのお看取りが27名、病院で最期を過ごされた方が22名でした。なるべく自宅で過ごしたいと希望されても、病状の急激な変化や介護量の増大があった場合、やはり入院対応をお願いせざるをえないことがあります。そこは在宅ケアといっても、やはり病院との連携が重要になってきます。

ご自宅でお看取りになった患者さんの、亡くなるまでの期間は平均5ヶ月、死亡病名はがんと老衰が大半でした。27名中、訪問看護は全例で利用し、点滴を行ったのは20名、在宅酸素療法は16名、麻薬投与は5名に行いました。

 

これからの在宅ケアのあり方は

 佐久医師会で昨年アンケートを行ったところ、在宅ケアを行っているのは68医療機関のうち、30でした。そのうち21が私のような開業医です。在宅ケアでもっとも大切で、かつ負担が大きいのがお看取りです。亡くなった患者さんを救急車で搬送するわけにはいかないので、主治医が自ら往診するしかありません。つまり、現在ではお看取りになりそうな患者さんがいる場合、主治医は遠出することができず、学会参加などを断念することもあります。

佐久医師会では現在、この在宅お看取りを有志会員の輪番制で行うよう、準備を進めています。この輪番制においては、深夜早朝に死亡された場合、次のように対応することが提案されています。まず訪問看護師が呼ばれて、心肺停止を確認し、その時刻が記録されます。輪番の医師は翌朝往診して死亡確認を行います。輪番医師が、深夜に初めての道を運転して行くことは、負担というだけでなく危険でもあることを考慮しています。当然のことながら、この方法をとるにはご家族の事前の了解が前提になります。

佐久医師会の取り組みによって、医師の負担が軽減し、より多くの患者さんに在宅ケアが提供できるようになることを期待しています。