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認知症の予防 ~認知症に強い脳を目指す~

認知症の患者さんは65歳以上の人口の約1割、全国で280万人以上と言われます。寿命が伸びて元気なお年寄りが増える一方で、認知症は自分や家族に起きるかもしれない身近な病気になってきました。認知症を完全に予防することは困難ですが、日常の生活習慣を見直すことで、発症を抑えることができます。

 

認知症の原因iga01

認知症は、単なる物忘れとは違います。病気などの原因で脳の様々な働きが低下し、日常生活や社会生活に支障が出た状態です。図に、解剖例から見た認知症の原因を示しました。全体の約半数がアルツハイマー病、次に多いのが脳血管性認知症です。他にも多くの病気がありますが、認知症の約70%が、この2つの病気が原因です。アルツハイマー病は、βアミロイドという異常蛋白が脳に溜まることで神経細胞が減っていく病気です。脳血管性認知症は、脳卒中や動脈硬化が原因で起きる認知症です。この2つは全く違う病気のように思われますが、発症と進行に生活習慣が大きく関係しているという共通点があります。

 

認知症の危険因子と防御因子

認知症を起こしやすくするもの(危険因子)には、高血圧・糖尿病・高脂血症などの生活習慣病、不健康な生活(偏食、たばこ、大量飲酒、過労、運動不足など)、過度のストレスなどがあります。一方、起こしにくくするもの(防御因子)としては、日常的な運動、趣味や社会活動を通じた交流、十分な睡眠、バランスの良い食事が挙げられています。認知症の予防とは、生活を見直して危険因子を減らし、防御因子を取り入れることです。

 

動脈硬化と認知症

危険因子の多くは動脈硬化の進行に関係があります。脳の動脈硬化が進行すると、認知症が起きやすくなります。脳には、神経細胞が減っても、細胞同士のつながり(神経回路)によって、失った細胞の働きを補うことができる予備的な能力が備わっています。この予備能が発達している人は認知症になりにくいと考えられます。動脈硬化が進行すると、脳の血流が低下して、神経細胞が壊れやすくなり、神経回路も切れやすくなります。脳の動脈硬化によって認知症の症状が起きやすくなるのです。これはアルツハイマー病と脳血管性認知症に限らず、全ての認知症について言えることです。

それに加えて、動脈硬化によって、アルツハイマー病の原因になるβアミロイドが溜まりやすくなります。また、動脈硬化は脳血管性認知症の最大の原因でもあります。

一方、防御因子の働きは、動脈硬化の抑制に加えて、知的な衰えを防ぐことです。閉じこもりがちで消極的な生活や、単調で刺激のない生活は、脳の働きを低下させます。新しい体験や知識を得ること、社会参加や交流は、良い刺激になります。旅行やスポーツ、音楽や絵を描くなどの趣味を持つこと、毎日続けられる軽い運動を生活に取り入れることも重要です。脳への刺激は、神経回路を強化するだけでなく、神経細胞の増加も期待できます。以前は脳の神経細胞が増えることはないと言われていましたが、最近の研究では海馬など一定の部分で、刺激に応じて新しい神経細胞が増えて神経回路を作ることがわかっています。この神経再生は、若いうちだけでなく、お年を召しても一生の間続きます。

脳を積極的に使うことで、脳神経の予備能を発達させ、認知症になりにくい脳を目指すことが出来ます。

最近は、極端な偏食やダイエットによる低栄養が問題になっています。高カロリー・高脂肪食を避けるのは重要ですが、栄養のバランスが重要です。炭水化物や脂肪も体を作るために必要で、不足すると筋肉や骨がもろくなり、免疫力が落ちます。骨折や肺炎は、認知症や寝たきり状態の大きな危険因子です。

 

最後にiga02

認知症を防ぐためには、動脈硬化の予防と心身の健康を保つ地道な努力が大事です。

佐久地域は長野県の中でも平均寿命が長く、元気なお年寄りがたくさんいらっしゃいます。皆さん、よく働き、旅行や趣味を楽しんで、充実した毎日を送っていらっしゃいます。これが長寿だけでなく、認知症予防の秘訣と考えられます。