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(2018年2月1日)
JA長野厚生連 佐久総合病院 佐久医療センター 糖尿病内分泌内科 (☎0267-62-8181) 渡邉 琢也 医師
日本における高血圧
現在、我が国における高血圧患者数は4300万人と推定されています。2017年11月現在の日本の総人口数が1億2677万人であることから考えると決して他人事ではありません。2004年までの統計ではそのほとんどが生活習慣に起因する、一般的で、かつ一生付き合っていく可能性のある高血圧、「本態性高血圧症」であると言われていました。しかし、この10数年における診断技術の進歩と、統計の再検討の結果、日本人の全高血圧患者の約3〜10%が原発性アルドステロン症(PA)という、特別な高血圧であるということがわかってきました。
高血圧の治療目的は脳心血管障害の合併を防ぐこと
ところで、高血圧と診断されて具合が悪いと感じる人はどれだけいるでしょう。上の血圧が高すぎると頭が重いとか、肩がこるなどの症状を訴える人は多くなりますが、ほとんどの人が無症状だと思います。それ故、時には「具合が悪くないのに何で治療しなきゃいけないの?」と疑問を投げかけてくる患者さんもいます。そういう方々に、私は「高血圧は沈黙の殺人者なんですよ」と申し上げています。その意味は、高血圧を放置すると同じ年齢で何も病気がない人に比較して人生に多大な障害を与え、時には命すら脅かす可能性のある脳心血管障害になる危険性が飛躍的に高くなるということです。そんな中、図1に示すように、PAは同年代の本態性高血圧症と比較して、各種心血管合併症を引き起こす可能性をさらに数倍に高めることがわかってきました。具体的な病名を挙げると、脳卒中→4.2倍、心筋梗塞→6.5倍、心房細動→12.1倍と言われています。このことから、PAを正確に診断することの重要性がお分かりいただけると思います。
PAの原因はアルドステロンの分泌異常にあり
1月号で内分泌とホルモンについて説明させていただきましたが、今回の主役、アルドステロンもホルモンの一種です。アルドステロンは図2に示す腎臓の上に付着している副腎という臓器から分泌されるホルモンで、レニンというホルモンによる調節を受けています。正常の調節機構として、まず身体の血流量が減少すると血圧が下がります。血圧が確保されないと、様々な臓器に障害が起こるため、身体はすぐに自動調節をせねばなりません。最も多くの血流を受ける臓器である腎臓に到達する血流量が減少すると、レニンが腎臓から分泌されます。そして、レニンが最終的に副腎からのアルドステロン分泌を促し、血圧が上昇します。PAはレニンと無関係に副腎からのアルドステロン分泌が過剰になってしまうことが原因です。すなわち、アルドステロンの過剰状態を解除してあげることができれば高血圧が治る可能性があるのです。
PAを疑うべき患者さんの背景
ここまでで、PAを診断して治療する意義がお分かりいただけたと思います。とはいえ、これだけの高血圧患者さんがいる中で全員にPAを疑って検査をする訳にはいきません。そこでこれが当てはまれば!という条件を次に提示します。 ①若くして高血圧と診断された。②上が160を超える高血圧。③すでに血圧を下げる薬を飲んでいるのに一向に下がらない。④副腎に腫瘍が見つかった。⑤40歳以下で脳卒中になってしまった。⑥血液検査でカリウムが低いと言われた。 このうち、1つでも当てはまるものがあれば積極的にかかりつけの先生に相談してみてください。その上で血液検査をしていただき、アルドステロンをレニンで割った値が一定値を越えているようであれば精密検査を受ける必要性があります。
PAの精査・治療
ここから先は、専門医への受診が必要です。私達の外来では、PA疑いの患者さんが紹介されてきたらまず外来で精密検査を1つ行い、副腎の画像検査(CTやMRIなど)を行います。それでもPAの疑いが晴れなければ次は入院精査です。約1週間の入院でさらに3つの精密検査を行い、診断を確定します。治療の選択肢は大きく分けて2つ、手術あるいは内服療法です。副腎の一部を切除することで治る可能性のあるPAであれば積極的に手術を勧めます。また、手術が適応ではなくても、PAには本態性高血圧にはあまり用いない、より適した薬物での治療を行います。「もしかしたら一生薬と付き合わずに高血圧が治るかもしれないし、手術が不可能であってもより適切な高血圧の治療ができる」。それがPAを診断し、治療する意義なのです。
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今や誰でも知っている高血圧症ですが、皆さんはどのような印象をお持ちでしょうか?初めて外来にいらっしゃる患者さんはよく「薬を一生飲まなきゃいけないんでしょ?」とおっしゃいます。確かに、一生付き合っていく可能性の高い高血圧がほとんどですが、「より危険」ですがうまく行けば「治る可能性のある」高血圧が意外と多くあることは知っていましたか?
JA長野厚生連 佐久総合病院 佐久医療センター
糖尿病内分泌内科 (☎0267-62-8181) 渡邉 琢也 医師
日本における高血圧
現在、我が国における高血圧患者数は4300万人と推定されています。2017年11月現在の日本の総人口数が1億2677万人であることから考えると決して他人事ではありません。2004年までの統計ではそのほとんどが生活習慣に起因する、一般的で、かつ一生付き合っていく可能性のある高血圧、「本態性高血圧症」であると言われていました。しかし、この10数年における診断技術の進歩と、統計の再検討の結果、日本人の全高血圧患者の約3〜10%が原発性アルドステロン症(PA)という、特別な高血圧であるということがわかってきました。
高血圧の治療目的は脳心血管障害の合併を防ぐこと
ところで、高血圧と診断されて具合が悪いと感じる人はどれだけいるでしょう。上の血圧が高すぎると頭が重いとか、肩がこるなどの症状を訴える人は多くなりますが、ほとんどの人が無症状だと思います。それ故、時には「具合が悪くないのに何で治療しなきゃいけないの?」と疑問を投げかけてくる患者さんもいます。そういう方々に、私は「高血圧は沈黙の殺人者なんですよ」と申し上げています。その意味は、高血圧を放置すると同じ年齢で何も病気がない人に比較して人生に多大な障害を与え、時には命すら脅かす可能性のある脳心血管障害になる危険性が飛躍的に高くなるということです。そんな中、図1に示すように、PAは同年代の本態性高血圧症と比較して、各種心血管合併症を引き起こす可能性をさらに数倍に高めることがわかってきました。具体的な病名を挙げると、脳卒中→4.2倍、心筋梗塞→6.5倍、心房細動→12.1倍と言われています。このことから、PAを正確に診断することの重要性がお分かりいただけると思います。
PAの原因はアルドステロンの分泌異常にあり
1月号で内分泌とホルモンについて説明させていただきましたが、今回の主役、アルドステロンもホルモンの一種です。アルドステロンは図2に示す腎臓の上に付着している副腎という臓器から分泌されるホルモンで、レニンというホルモンによる調節を受けています。正常の調節機構として、まず身体の血流量が減少すると血圧が下がります。血圧が確保されないと、様々な臓器に障害が起こるため、身体はすぐに自動調節をせねばなりません。最も多くの血流を受ける臓器である腎臓に到達する血流量が減少すると、レニンが腎臓から分泌されます。そして、レニンが最終的に副腎からのアルドステロン分泌を促し、血圧が上昇します。PAはレニンと無関係に副腎からのアルドステロン分泌が過剰になってしまうことが原因です。すなわち、アルドステロンの過剰状態を解除してあげることができれば高血圧が治る可能性があるのです。
PAを疑うべき患者さんの背景
ここまでで、PAを診断して治療する意義がお分かりいただけたと思います。とはいえ、これだけの高血圧患者さんがいる中で全員にPAを疑って検査をする訳にはいきません。そこでこれが当てはまれば!という条件を次に提示します。
①若くして高血圧と診断された。②上が160を超える高血圧。③すでに血圧を下げる薬を飲んでいるのに一向に下がらない。④副腎に腫瘍が見つかった。⑤40歳以下で脳卒中になってしまった。⑥血液検査でカリウムが低いと言われた。
このうち、1つでも当てはまるものがあれば積極的にかかりつけの先生に相談してみてください。その上で血液検査をしていただき、アルドステロンをレニンで割った値が一定値を越えているようであれば精密検査を受ける必要性があります。
PAの精査・治療
ここから先は、専門医への受診が必要です。私達の外来では、PA疑いの患者さんが紹介されてきたらまず外来で精密検査を1つ行い、副腎の画像検査(CTやMRIなど)を行います。それでもPAの疑いが晴れなければ次は入院精査です。約1週間の入院でさらに3つの精密検査を行い、診断を確定します。治療の選択肢は大きく分けて2つ、手術あるいは内服療法です。副腎の一部を切除することで治る可能性のあるPAであれば積極的に手術を勧めます。また、手術が適応ではなくても、PAには本態性高血圧にはあまり用いない、より適した薬物での治療を行います。「もしかしたら一生薬と付き合わずに高血圧が治るかもしれないし、手術が不可能であってもより適切な高血圧の治療ができる」。それがPAを診断し、治療する意義なのです。