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(2016年7月1日)
JA長野厚生連 佐久総合病院 (☎0267-82-3131) リハビリテーション科 太田 正 部長
リハビリはすぐに始まる
“安静第一”の昔と違って、今のリハビリはすぐに始まります。脳卒中の場合、救急で入院すると2〜3日のうちにベッドから起きる練習を始めます。早く始めるほど回復が早まり、早く家に帰れます。一人一人の病状や環境によって入院期間は様々ですが、自宅で安全に生活できる段階になれば、リハビリの場も病院から自宅に移ります。
CTで回復の予測はできない
ところで、病気やケガをしたら、必ずレントゲン・CT・MRIなどの画像検査が行われます。正確な診断こそ適切な治療に不可欠だからです。ところが、脳に受けた傷のために起こっている症状(意識がない、言葉が不自由、歩けない、食べ物をうまく飲み込めないなどの障害)が「どこまで良くなるのか」を予測するのに、画像検査はあまり役立ちません。「傷が大きいほど後遺症も大きい」という傾向はわかっても、「一人一人の患者さんがどうなるか」という一番の関心事に、画像検査は答えてくれないのです。
「アンビリーバブル」な回復をしたAさん
Aさんは30代の時、仕事で高所から転落して頭を強打、救急車で運ばれた時のCT(図1)では頭蓋骨は陥没骨折し、重度の脳挫傷を起こしていました。手術や集中治療で何とか救命されましたが、植物状態のままリハビリ専門病棟へ移りました。しかし、1年経っても言葉は出ず、管からの栄養剤です。脳はすっかり縮んでしまいました(図2)。ところが、それから少しずつ回復を続け、1年半で初めて言葉を発し、2年を過ぎてようやく自分で食事が摂れるようになりました。その後、とうとう歩けるようになったAさんは3年半で自宅に退院。外来では高次脳機能(注意力や記憶力など「頭の働き」のことで、認知機能とも言われる)の訓練を続け、7年後には電車やバスを使って一人で通院し、選挙の投票にも行けるようになりました。ところで、Aさんの脳の状態はどうでしょう(図3)。写真の上では植物状態だった頃とまるで変わりがないのです。回復には、生き延びた細胞の肩代わり(可塑性(かそせい)と言います)が働きます。
杖や装具は上手に使う
さて、近頃は半身麻痺になった方を街角で見かけることが珍しくなくなりました。杖は外からすぐわかりますが、足に履く装具はあまり知られていません。装具も昔と違って、治療のために急性期からどんどん使います。早い段階から装具で足を支え、立って歩くことが麻痺の回復に役立つことがわかっています。しかも歩くスピードも速くなります(図4)。脳出血で左半身に麻痺がある主婦のBさんは、杖や装具がなくても歩けますが、適切な装具を履くと速度が6倍、杖を加えると7倍になります。家の中では杖は要らず、家事もこなします。そうすると体力も自然について、退院して1年経つ頃には広い商業施設の中でも車椅子が要らなくなりました。道具を上手に使うことで、自分で動ける範囲は飛躍的に広がるのです。
目標のある人は強い
定年退職直前にクモ膜下出血で重い飲み込みの不自由(嚥下(えんげ)障害)が残ってしまったCさん。一人で歩けはしますが管からの栄養剤頼りのままで退院。それでも、「定年後は農業するぞ!」と決めていたCさんは、栄養剤を自分で注入しながら畑仕事を始めました。自宅で毎日飲み込みの訓練を続けながら病院に通院してくるCさんの顔は、日に焼けてどんどん黒くなっていきます。とうとう発症から1年2か月で管からの栄養が要らなくなりました。さらに、田んぼを始めたり山に登ったり車で旅行をしているうちに、5年後にはついに普通の食事が摂れるようになりました。
最大限の回復を目指して
ここに紹介した方々は、決して例外ではありません。もちろん回復の難しい方もいらっしゃいます。それでも、一人一人の患者さんが回復の芽を最大限伸ばすためには、身近な刺激(好きな音楽、家族の声、外出など)、具体的な目標(やりたいこと、行きたいところ)、そして体力が必要です。やりたいことがないと引きこもりがちになり、体力は落ちていくという悪循環に陥ります。そうならないために、普段からご家族と一緒にやれることを作っておくことが大切です。
月刊ぷらざ編集部(株式会社信州広告社)
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脳卒中や頭のケガで佐久総合病院に入院される方は、年間400人にのぼります。生じる障害(頭や体の不自由)は様々ですが、ほとんどの方にリハビリテーションが必要です。「脳細胞は一度死んだら再生しない」「失われた脳の機能は二度と戻らない」と信じられていますが、それは本当でしょうか。私どもが経験した患者さんたちのご様子から、そのリハビリテーションの一端を紹介しましょう。
JA長野厚生連 佐久総合病院 (☎0267-82-3131)
リハビリテーション科 太田 正 部長
リハビリはすぐに始まる
“安静第一”の昔と違って、今のリハビリはすぐに始まります。脳卒中の場合、救急で入院すると2〜3日のうちにベッドから起きる練習を始めます。早く始めるほど回復が早まり、早く家に帰れます。一人一人の病状や環境によって入院期間は様々ですが、自宅で安全に生活できる段階になれば、リハビリの場も病院から自宅に移ります。
CTで回復の予測はできない
ところで、病気やケガをしたら、必ずレントゲン・CT・MRIなどの画像検査が行われます。正確な診断こそ適切な治療に不可欠だからです。ところが、脳に受けた傷のために起こっている症状(意識がない、言葉が不自由、歩けない、食べ物をうまく飲み込めないなどの障害)が「どこまで良くなるのか」を予測するのに、画像検査はあまり役立ちません。「傷が大きいほど後遺症も大きい」という傾向はわかっても、「一人一人の患者さんがどうなるか」という一番の関心事に、画像検査は答えてくれないのです。
「アンビリーバブル」な回復をしたAさん
Aさんは30代の時、仕事で高所から転落して頭を強打、救急車で運ばれた時のCT(図1)では頭蓋骨は陥没骨折し、重度の脳挫傷を起こしていました。手術や集中治療で何とか救命されましたが、植物状態のままリハビリ専門病棟へ移りました。しかし、1年経っても言葉は出ず、管からの栄養剤です。脳はすっかり縮んでしまいました(図2)。ところが、それから少しずつ回復を続け、1年半で初めて言葉を発し、2年を過ぎてようやく自分で食事が摂れるようになりました。その後、とうとう歩けるようになったAさんは3年半で自宅に退院。外来では高次脳機能(注意力や記憶力など「頭の働き」のことで、認知機能とも言われる)の訓練を続け、7年後には電車やバスを使って一人で通院し、選挙の投票にも行けるようになりました。ところで、Aさんの脳の状態はどうでしょう(図3)。写真の上では植物状態だった頃とまるで変わりがないのです。回復には、生き延びた細胞の肩代わり(可塑性(かそせい)と言います)が働きます。
杖や装具は上手に使う
さて、近頃は半身麻痺になった方を街角で見かけることが珍しくなくなりました。杖は外からすぐわかりますが、足に履く装具はあまり知られていません。装具も昔と違って、治療のために急性期からどんどん使います。早い段階から装具で足を支え、立って歩くことが麻痺の回復に役立つことがわかっています。しかも歩くスピードも速くなります(図4)。脳出血で左半身に麻痺がある主婦のBさんは、杖や装具がなくても歩けますが、適切な装具を履くと速度が6倍、杖を加えると7倍になります。家の中では杖は要らず、家事もこなします。そうすると体力も自然について、退院して1年経つ頃には広い商業施設の中でも車椅子が要らなくなりました。道具を上手に使うことで、自分で動ける範囲は飛躍的に広がるのです。
目標のある人は強い
定年退職直前にクモ膜下出血で重い飲み込みの不自由(嚥下(えんげ)障害)が残ってしまったCさん。一人で歩けはしますが管からの栄養剤頼りのままで退院。それでも、「定年後は農業するぞ!」と決めていたCさんは、栄養剤を自分で注入しながら畑仕事を始めました。自宅で毎日飲み込みの訓練を続けながら病院に通院してくるCさんの顔は、日に焼けてどんどん黒くなっていきます。とうとう発症から1年2か月で管からの栄養が要らなくなりました。さらに、田んぼを始めたり山に登ったり車で旅行をしているうちに、5年後にはついに普通の食事が摂れるようになりました。
最大限の回復を目指して
ここに紹介した方々は、決して例外ではありません。もちろん回復の難しい方もいらっしゃいます。それでも、一人一人の患者さんが回復の芽を最大限伸ばすためには、身近な刺激(好きな音楽、家族の声、外出など)、具体的な目標(やりたいこと、行きたいところ)、そして体力が必要です。やりたいことがないと引きこもりがちになり、体力は落ちていくという悪循環に陥ります。そうならないために、普段からご家族と一緒にやれることを作っておくことが大切です。