佐久、小諸、上田…東信のことなら、ぷらざINFO
マークはクーポン券付きのお店です
(2016年3月1日)
JA長野厚生連 佐久総合病院 佐久医療センター (☎0267-62-8181) 循環器内科 部長 矢﨑 善一 医師
心不全とは?
心臓の機能が低下することで、心臓から全身に出て行く血液が減少し(心拍出量低下)、減少した分はうっ滞し肺や体に貯留します(うっ血)。うっ滞が肺に起こると息切れや呼吸困難、体に起こるとむくみとしてあらわれます。多くの患者さんはこのうっ血による症状を訴えて来院します。息切れは肺の病気や貧血でも自覚されます。むくみは心不全のみならず腎臓病や肝臓病でも起こります。心不全のむくみは通常両方の脚にみられますが、片方にみられた場合は脚の静脈に血のかたまり(血栓)が詰まる深部静脈血栓症にも注意が必要です。
心不全の原因となる心臓病
心臓を栄養する血管(冠動脈)が詰まることで起こる急性心筋梗塞は、栄養する心臓の筋肉が機能を失い、広範囲にわたると心不全を起こすことがあります。心臓を栄養する血管に異常がなくても、心臓の筋肉に問題がある心筋症という病気も心不全の原因になります。また、心臓には4つの逆流防止弁がありますが、開きが悪くなったり、逆流してもれが生じ進行すると心不全をきたします(心臓弁膜症)。生まれつき心臓に孔があいていたり構造の異常があると心不全症状も問題となります(先天性心疾患)。たかが高血圧と放置しておくと急に心不全をきたすことがあります。極端に脈が速くなったり遅くなったり不整脈が続くことで心不全が生じることもあります。
心不全の診断
息切れやむくみを訴えて来院した場合、まず①心不全なのかどうか、次に②心不全を起こしている心臓の病気を調べます。
①心不全かどうかの診断…採血や尿検査を行い、腎機能、肝機能、貧血の有無について調べます。私たちが最も着目する項目は脳性利尿ペプチド(BNP)です。BNPは心臓に負担がかかると分泌されるホルモンの一種です。重症になるほど上昇し、正常な場合は心不全でなく別の病気の可能性が高くなります。採血により心不全かどうかを推定できる便利な時代になりました。胸部レントゲン検査では心臓が拡大していないか、肺に水が溜まっていないかなどをみますが、息切れの原因として肺の病気がわかることもあります。
②心不全を起こしている心臓病の診断…心電図と心エコー検査が、患者さんに負担のかからない検査として行われます。心電図により心筋梗塞や各種不整脈がわかります。心エコーは心臓弁膜症や先天性心疾患の診断に役立ち、心臓の動きや壁の厚さなどをみることで心臓の筋肉の病気もわかります。その他、心筋シンチグラフィやMRIなどの画像診断を行うこともありますが、最終的には心臓カテーテル検査を行い心臓病の診断や治療方針を決定します。
心不全の治療
心不全の治療は大きく分けて、①薬の治療と②薬以外の治療に分けられます。①薬の治療…心臓の収縮が低下しているタイプの心不全では薬の治療が確立されています。呼吸困難やむくみのある方では、肺や体に溜まった水分や塩分を外に出すために利尿薬を使います。重症な方は収縮を強くする薬(強心薬)を一時的に使用します。高血圧の治療に使われるある種の薬が心不全患者に有効なことがわかっています。心臓の負担を軽くする、疲れを癒す薬と考えて良いと思います。
②薬以外の治療…心不全の原因となっている心臓の病気では、手術の適応を常に考えることが必要です。例えば、心臓弁膜症では弁を修復したり(弁形成術)、取り替えたり(弁置換術)します。薬の治療では効果に限界があるからです。睡眠呼吸障害が心不全を悪化させている場合は、夜間に酸素を吸うことがあります。心機能が非常に悪い方や重症不整脈の危険がある方に対して特殊なペースメーカー治療も行われます。これらの治療をすべて行っても心不全が十分改善しない65歳未満の症例には、様々な条件を検討したうえで心臓移植や人工心臓の適応を考えます。
高齢者心不全の特徴
高齢者では心臓の収縮力が落ちていなくてもしばしば心不全を起こすことがあり、貧血や腎機能障害などを合併していれば、心不全のコントロールが予想以上に難しく、入退院を繰り返す方が大勢います。高齢者では脳梗塞の後遺症や整形外科の病気を持った方が多く、体の動きが制限されるため息切れなどの症状が出にくい可能性があります。また、症状を自覚しても、年のせいだろうと考え受診が遅れることもあるようです。さらに、認知症や老老介護では内服薬を正しく飲めない可能性もあり、ご家族、多職種、地域でこのような高齢者を包括的に支えていく必要があると考えられます。最近当院では、慢性心不全看護認定看護師という資格を取得した看護師とともに心不全外来を立ち上げています。入退院を繰り返す患者に対し、医師の診察後、30分程心不全悪化の要因を分析し、それに基づき細かく生活指導を行います。心不全外来を立ち上げてから心不全による再入院は減少し、たとえ入院しても早めに悪化がとらえられるため入院期間も短くすんでいます。心不全も早期発見が重要です。息切れやむくみが気になる方は、まずお近くのかかりつけ医にご相談下さい。そこで心不全の可能性が高い場合は適切な診断と治療が必要ですので、佐久医療センターを紹介受診して下さい。
月刊ぷらざ編集部(株式会社信州広告社)
Copyright(c) saac.co.ltd All Rights Reserved.
心不全では息切れやむくみを自覚して受診される方が多いのですが、心不全を引き起こしている心臓の病気には様々なものがあります。寒い季節は、血圧の上昇や雪かきなどが心臓に負担をかけて心不全が悪化しやすい時期です。心不全について皆さんの理解が深まるよう、心不全の診断と治療、高齢者心不全の特徴などについてお話しします。
JA長野厚生連 佐久総合病院 佐久医療センター (☎0267-62-8181)
循環器内科 部長 矢﨑 善一 医師
心不全とは?
心臓の機能が低下することで、心臓から全身に出て行く血液が減少し(心拍出量低下)、減少した分はうっ滞し肺や体に貯留します(うっ血)。うっ滞が肺に起こると息切れや呼吸困難、体に起こるとむくみとしてあらわれます。多くの患者さんはこのうっ血による症状を訴えて来院します。息切れは肺の病気や貧血でも自覚されます。むくみは心不全のみならず腎臓病や肝臓病でも起こります。心不全のむくみは通常両方の脚にみられますが、片方にみられた場合は脚の静脈に血のかたまり(血栓)が詰まる深部静脈血栓症にも注意が必要です。
心不全の原因となる心臓病
心臓を栄養する血管(冠動脈)が詰まることで起こる急性心筋梗塞は、栄養する心臓の筋肉が機能を失い、広範囲にわたると心不全を起こすことがあります。心臓を栄養する血管に異常がなくても、心臓の筋肉に問題がある心筋症という病気も心不全の原因になります。また、心臓には4つの逆流防止弁がありますが、開きが悪くなったり、逆流してもれが生じ進行すると心不全をきたします(心臓弁膜症)。生まれつき心臓に孔があいていたり構造の異常があると心不全症状も問題となります(先天性心疾患)。たかが高血圧と放置しておくと急に心不全をきたすことがあります。極端に脈が速くなったり遅くなったり不整脈が続くことで心不全が生じることもあります。
心不全の診断
息切れやむくみを訴えて来院した場合、まず①心不全なのかどうか、次に②心不全を起こしている心臓の病気を調べます。
①心不全かどうかの診断…採血や尿検査を行い、腎機能、肝機能、貧血の有無について調べます。私たちが最も着目する項目は脳性利尿ペプチド(BNP)です。BNPは心臓に負担がかかると分泌されるホルモンの一種です。重症になるほど上昇し、正常な場合は心不全でなく別の病気の可能性が高くなります。採血により心不全かどうかを推定できる便利な時代になりました。胸部レントゲン検査では心臓が拡大していないか、肺に水が溜まっていないかなどをみますが、息切れの原因として肺の病気がわかることもあります。
②心不全を起こしている心臓病の診断…心電図と心エコー検査が、患者さんに負担のかからない検査として行われます。心電図により心筋梗塞や各種不整脈がわかります。心エコーは心臓弁膜症や先天性心疾患の診断に役立ち、心臓の動きや壁の厚さなどをみることで心臓の筋肉の病気もわかります。その他、心筋シンチグラフィやMRIなどの画像診断を行うこともありますが、最終的には心臓カテーテル検査を行い心臓病の診断や治療方針を決定します。
心不全の治療
心不全の治療は大きく分けて、①薬の治療と②薬以外の治療に分けられます。①薬の治療…心臓の収縮が低下しているタイプの心不全では薬の治療が確立されています。呼吸困難やむくみのある方では、肺や体に溜まった水分や塩分を外に出すために利尿薬を使います。重症な方は収縮を強くする薬(強心薬)を一時的に使用します。高血圧の治療に使われるある種の薬が心不全患者に有効なことがわかっています。心臓の負担を軽くする、疲れを癒す薬と考えて良いと思います。
②薬以外の治療…心不全の原因となっている心臓の病気では、手術の適応を常に考えることが必要です。例えば、心臓弁膜症では弁を修復したり(弁形成術)、取り替えたり(弁置換術)します。薬の治療では効果に限界があるからです。睡眠呼吸障害が心不全を悪化させている場合は、夜間に酸素を吸うことがあります。心機能が非常に悪い方や重症不整脈の危険がある方に対して特殊なペースメーカー治療も行われます。これらの治療をすべて行っても心不全が十分改善しない65歳未満の症例には、様々な条件を検討したうえで心臓移植や人工心臓の適応を考えます。
高齢者心不全の特徴
高齢者では心臓の収縮力が落ちていなくてもしばしば心不全を起こすことがあり、貧血や腎機能障害などを合併していれば、心不全のコントロールが予想以上に難しく、入退院を繰り返す方が大勢います。高齢者では脳梗塞の後遺症や整形外科の病気を持った方が多く、体の動きが制限されるため息切れなどの症状が出にくい可能性があります。また、症状を自覚しても、年のせいだろうと考え受診が遅れることもあるようです。さらに、認知症や老老介護では内服薬を正しく飲めない可能性もあり、ご家族、多職種、地域でこのような高齢者を包括的に支えていく必要があると考えられます。最近当院では、慢性心不全看護認定看護師という資格を取得した看護師とともに心不全外来を立ち上げています。入退院を繰り返す患者に対し、医師の診察後、30分程心不全悪化の要因を分析し、それに基づき細かく生活指導を行います。心不全外来を立ち上げてから心不全による再入院は減少し、たとえ入院しても早めに悪化がとらえられるため入院期間も短くすんでいます。心不全も早期発見が重要です。息切れやむくみが気になる方は、まずお近くのかかりつけ医にご相談下さい。そこで心不全の可能性が高い場合は適切な診断と治療が必要ですので、佐久医療センターを紹介受診して下さい。