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(2017年9月1日)
佐久市立国保浅間総合病院 麻酔科 (☎0267-67-2295) シルバーランドきしの嘱託医 仲井 淳 医師
嘱託医として勤務してからのはじめの3年間は年間50人ほどの入院がありましたが、その後入院は激減して、ほとんどの方が施設で亡くなっています。
施設での幸せな終わり方
食事がだんだんできなくなって、次第に弱って行く、これが最も普通で苦しくない終わり方だと思います。飲み込む力が弱まった方が、食事の最中や後に食べ物がのどに詰まって終わる、元気だったのに、夜中に呼吸停止の状態を発見、施設ではこんな死に方も辛い終わり方ではありません。
施設で看取るには
まだ元気なうちにご家族と面談し、どのような最期を迎えるのか、希望を聞かせていただく事が嘱託医の最も大事な仕事だと思います。今後、食事が摂れなくなってきたらどうするのか、肺炎の症状があったら入院をするのかなどの話です。
穏やかな最期を目標にする事を確認できれば、その後、どのような変化があっても、ご家族も我々もあわてずに対処できます。
入院が必要な時
整形外科医が骨折の手術が必要と判断すれば、90歳以上でも、全身麻酔を引き受けます。そこまで生きて来られた方なら少々の合併症があっても、安全に手術を終えて翌日には食事ができます。
肺炎や尿路感染症など、高齢者に特有の病気の場合、ご家族が希望すれば入院をしていただきますが、その際の打ち合わせは特に重要です。超高齢者は入院をする事で、良くならない場合も多いからです。入院を契機に食べられなくなる、不穏状態が続いて抑制される、良くなっても退院前にまた発熱するなど。お年寄りには、若い患者さんと同じような医療は行わない方が良い事もあります。特に、穏やかな最期を遠ざける“死なないようにする医療〟が続くのはお年寄りには大変辛い事です。
“看取り退院”という選択
なので、ご家族との打ち合わせでは、①専門の医師にお任せして治療をしていただく②私がそのまま入院主治医となって、最低限の検査、数日間の点滴、抗生剤投与のみを行って、少しでも良くなれば、それ以上の事はしないで退院し、改善せずに悪化するなら看取りを前提に施設に退院するといういずれかの選択を提案します。
“看取り退院”を前提とした入院を希望されるご家族がほとんどですが、良くならなくて施設に帰ったその後はけっして不幸ではありません。少々具合が悪くても、また、経口摂取ができないままでも、施設に戻ると予想外の回復力でいつのまにか食べているという事はよくあります。
病院を利用するのはほどほどにして、“いつ終わっても良い”という了解さえできれば、素晴らしい生命力で復活するか、穏やかにゴールに向うかのどちらかです。
薬の話
入所時には、多くの方がたくさんの薬を処方されています。10種類以上という方も稀ではありません。
超高齢者への効果と副作用、薬の相互作用、を考えると、いいのかな?という疑問は感じますが、それまでの主治医の判断を尊重して継続します。
時に、元気がない、食欲が落ちたという理由で薬をすべて中止してみる事があります。いささか乱暴ですが、種類が多いほどやめても少なくとも悪くはなりません。高齢になればなるほど、薬はいらなくなるのでは、と思います。
製薬会社は、薬を減らす事には興味もないでしょうし、内科の先生が前医の処方を中止しにくい事も理解できます。
お金の話
例えば高齢者に100万円の医療を行うとして、自己負担分以外の90万円は国民全体のもので、他の用途に使うべきなのかもしれません。一方、医療を行わなければ病院の収益は発生しません。病院が“お年寄りのために”“良い医療”を行うほど国の金が消えて行くという覚悟の上で高齢者医療を行うべきだと思います。
死ぬ場所について
病院のベッドは、高齢者が落ち着いて死んでいくには不向きな場所です。また、在宅死はそれが可能なお年寄りとご家族にとっては幸せな選択だと思いますが、ご家族の大きな負担が必要で、日本のこれからの社会状況を考えるとこれがより良い終末期とは思えません。
酸素マスクも心電図モニターも使いませんが、特別老人ホームは生きる事と連続した最期を提供できる場所です。
“その時”に嘱託医ができるのは、知らせを受けて向かう事だけです。しかし死亡確認の場で、ご家族の“辛いけど幸せな別れ”にわずかでも共感できるのはうれしい事です。
月刊ぷらざ編集部(株式会社信州広告社)
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2008年4月から特別老人ホーム“シルバーランドきしの”で、嘱託医をしています。病院では麻酔科医で、高齢者医療は素人ですが、300人近くのお年寄りの最期を経験させていただいて、多くの事を学びました。今回は、いかに元気で長生きするかではなく、いずれ私たちにも来る最期をどのように迎えるのかというお話です。
佐久市立国保浅間総合病院 麻酔科 (☎0267-67-2295) シルバーランドきしの嘱託医
仲井 淳 医師
嘱託医として勤務してからのはじめの3年間は年間50人ほどの入院がありましたが、その後入院は激減して、ほとんどの方が施設で亡くなっています。
施設での幸せな終わり方
食事がだんだんできなくなって、次第に弱って行く、これが最も普通で苦しくない終わり方だと思います。飲み込む力が弱まった方が、食事の最中や後に食べ物がのどに詰まって終わる、元気だったのに、夜中に呼吸停止の状態を発見、施設ではこんな死に方も辛い終わり方ではありません。
施設で看取るには
まだ元気なうちにご家族と面談し、どのような最期を迎えるのか、希望を聞かせていただく事が嘱託医の最も大事な仕事だと思います。今後、食事が摂れなくなってきたらどうするのか、肺炎の症状があったら入院をするのかなどの話です。
穏やかな最期を目標にする事を確認できれば、その後、どのような変化があっても、ご家族も我々もあわてずに対処できます。
入院が必要な時
整形外科医が骨折の手術が必要と判断すれば、90歳以上でも、全身麻酔を引き受けます。そこまで生きて来られた方なら少々の合併症があっても、安全に手術を終えて翌日には食事ができます。
肺炎や尿路感染症など、高齢者に特有の病気の場合、ご家族が希望すれば入院をしていただきますが、その際の打ち合わせは特に重要です。超高齢者は入院をする事で、良くならない場合も多いからです。入院を契機に食べられなくなる、不穏状態が続いて抑制される、良くなっても退院前にまた発熱するなど。お年寄りには、若い患者さんと同じような医療は行わない方が良い事もあります。特に、穏やかな最期を遠ざける“死なないようにする医療〟が続くのはお年寄りには大変辛い事です。
“看取り退院”という選択
なので、ご家族との打ち合わせでは、①専門の医師にお任せして治療をしていただく②私がそのまま入院主治医となって、最低限の検査、数日間の点滴、抗生剤投与のみを行って、少しでも良くなれば、それ以上の事はしないで退院し、改善せずに悪化するなら看取りを前提に施設に退院するといういずれかの選択を提案します。
“看取り退院”を前提とした入院を希望されるご家族がほとんどですが、良くならなくて施設に帰ったその後はけっして不幸ではありません。少々具合が悪くても、また、経口摂取ができないままでも、施設に戻ると予想外の回復力でいつのまにか食べているという事はよくあります。
病院を利用するのはほどほどにして、“いつ終わっても良い”という了解さえできれば、素晴らしい生命力で復活するか、穏やかにゴールに向うかのどちらかです。
薬の話
入所時には、多くの方がたくさんの薬を処方されています。10種類以上という方も稀ではありません。
超高齢者への効果と副作用、薬の相互作用、を考えると、いいのかな?という疑問は感じますが、それまでの主治医の判断を尊重して継続します。
時に、元気がない、食欲が落ちたという理由で薬をすべて中止してみる事があります。いささか乱暴ですが、種類が多いほどやめても少なくとも悪くはなりません。高齢になればなるほど、薬はいらなくなるのでは、と思います。
製薬会社は、薬を減らす事には興味もないでしょうし、内科の先生が前医の処方を中止しにくい事も理解できます。
お金の話
例えば高齢者に100万円の医療を行うとして、自己負担分以外の90万円は国民全体のもので、他の用途に使うべきなのかもしれません。一方、医療を行わなければ病院の収益は発生しません。病院が“お年寄りのために”“良い医療”を行うほど国の金が消えて行くという覚悟の上で高齢者医療を行うべきだと思います。
死ぬ場所について
病院のベッドは、高齢者が落ち着いて死んでいくには不向きな場所です。また、在宅死はそれが可能なお年寄りとご家族にとっては幸せな選択だと思いますが、ご家族の大きな負担が必要で、日本のこれからの社会状況を考えるとこれがより良い終末期とは思えません。
酸素マスクも心電図モニターも使いませんが、特別老人ホームは生きる事と連続した最期を提供できる場所です。
“その時”に嘱託医ができるのは、知らせを受けて向かう事だけです。しかし死亡確認の場で、ご家族の“辛いけど幸せな別れ”にわずかでも共感できるのはうれしい事です。