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ホントは怖い糖尿病の話

近年、糖尿病を発症する方が増えています。しかし多くの場合、無症状であることから検診で高血糖を指摘されても放置されてしまいがちです。これは特に40〜50歳代の働き盛りの年代に多く見受けられますが、数年後の寿命や生活の質を決定するような糖尿病に関連する合併症を予防するためには、可能な限り早期から治療を開始することが重要です。検診をしっかり受け、早期から血糖をしっかりコントロールしましょう。

JA長野厚生連 佐久総合病院 佐久医療センター (☎0267-62-8181)
糖尿病・内分泌内科 堀込 充章 医師

 

 

何ともないから見過ごされやすい糖尿病

皆さんは糖尿病の症状をご存知でしょうか?よく糖尿病になると「のどが渇く」、「おしっこが近くなる」、「尿に独特のにおいがするようになる」などといわれます。しかし、これらの症状は糖尿病でもかなり重症の患者さんに見られることが多く、糖尿病を“こじらせて”しまってはじめて現れる症状なのです。血図表_修正済み_1222-01液中の糖(ブドウ糖)の濃度を血糖値と呼びますが、血糖値がかなり上昇しないとこれらの症状は出てきません。従ってほとんどの糖尿病患者さんは無症状で、ある程度進行した状態でも自覚症状がないことが少なくありません。自覚症状がないため、検診で高血糖を指摘されても放置されているケースが多いことが問題になっています。特に働き盛りの40歳代、50歳代の(治療中断も含めた)未治療率は、図に示すように、男女ともに40〜60%前後と極めて高い状況にあります。

 

実はあの病気も糖尿病が原因でなりやすくなる

糖尿病は、血液中の糖を上手に体内で利用出来なくなるため起こります。その結果血液中のブドウ糖が増えてしまうわけですが、高血糖が直接生命を脅かすことは稀です。糖尿病の困ったところは、血糖値が上がったことにより様々な合併症を引き起こすことにあります。糖尿病に特有な合併症として、目を傷めて最終的には失明したり、腎臓を傷めて血液透析が必要になったりすることがあります。その他にも神経に不具合が出ることもありますが、これらの合併症は日常生活に様々な支障をきたすものであり、より良い日常生活を送る妨げになってしまいます。
そればかりでなく、糖尿病だけに合併するわけではありませんが、狭心症・心筋梗塞・脳卒中など、直接患者さんの寿命を決めるような、命に関わる合併症も起こりやすくなります。まさに死神と背中合わせ…ということにもなりかねません。
また、最近注目されている合併症として、がんと認知症があります。糖尿病になると、がんと認知症になりやすくなることが様々な研究報告からわかってきています。糖尿病患者さんはそうでない方よりも、がんの発症率が1.2〜1.8倍増えることがわかっています。喫煙による発癌がたばこを吸わない人の1.7倍程度といわれているので、かなり高い頻度であることがわかります。またアルツハイマー型認知症は、糖尿病患者さんは、そうでない方より2.5倍なりやすいといわれており、血糖コントロールが悪い方ほどなりやすいこともわかっています。最近の研究でアルツハイマー型認知症は、脳内のインスリンの量が発症に関係することなどもわかってきており、「脳の糖尿病」と表現されることもあります。
これらの合併症は、短期間では発症しません。10〜20年の年月をかけて徐々に出てきます。しかし、糖尿病と診断される前の、いわゆる「糖尿病予備群」の段階から、これら合併症は始まるものも多く、糖尿病が疑われた段階で既に合併症の芽は出てきているのです。「何ともないから受診はもう少ししてから…」を繰り返していると、気がついたときには、大きな合併症に成長していることも十分あります。

 

健康で長生きするために

糖尿病の治療目標は、「健康で長生き」することです。糖尿病を放置せず治療することで、誰の手も借りずに自分の見たいものを見て、楽しみたいことを楽しむという当たり前の生活を、何歳になっても送れる身体を維持しましょう。その実現のために、若いうちから検診を受けること、検診で高血糖を指摘されたら早期に専門医を受診し治療を開始することが重要です。治療を開始したら、勝手に治療を中断することなく、治療を継続しましょう。治療を中断した患者さんが再度受診するときには、合併症が高度に進行してしまっていることが非常に多いです。
皆さんの寿命や、老後の生活を決めるのは、若い頃からの血糖管理次第といっても過言ではないのです。