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母乳と薬

母乳育児の利点

母乳は赤ちゃんにとって最良の栄養です。ミルクに比べた母乳の有益性をいくつか挙げてみます。まず栄養学的利点があります。母乳は、ミルクに比べ消化・吸収能の未熟な新生児・乳児にも利用されやすいことがわかっています。二つ目は免疫学的利点があります。母乳に含まれているIgA抗体やラクトフェリンといった免疫物質によって、赤ちゃんが感染症に強く、アレルギーを起こしにくいとされています。三つ目はスキンシップによる母子関係の確立があります。四つ目はお金がかからず、経済的にも優れています。また最近では、子供の知能発達に対する影響も知られ、母乳栄養児は人工栄養児に比べ認知発達テストにおいて良い成績を取り、期間が長い程その差が明らかになるという報告もあります。赤ちゃんばかりでなく、お母さんにも良い効果があります。分娩後出血の減少、お母さんのリウマチや糖尿病、乳癌・卵巣癌などの発症リスクの低下が知られています。アメリカ小児科学会は、完全母乳を6ヶ月以上、さらに継続して1年以上の授乳を推奨しています。

 

お母さんの服薬と授乳の現状

優れた面の多い母乳育児ですが、母乳を中断してしまう一つの要因としてお母さんの病気の治療に用いられる薬があります。現在、授乳中のお母さんへの薬の投与について、統一されたガイドラインはありません。実際、医師や薬剤師が授乳中のお母さんに対して指導をする場合、医薬品添付文書の記載に沿って説明します。しかし医薬品添付文書を見ると「薬の投与中は授乳を中止させる」、「授乳を避けさせる」との記載が約75%を占めています。残りのうち約13%は「治療上の有効性が危険を上回ると判断される場合のみ投与する」と書かれています。この事から、お母さん自身が赤ちゃんに対する影響を気にして断乳したり、また授乳中だから薬は出せないと医師から言われて自身の治療を諦めたりする事が多くみられます。実際には赤ちゃんに対して有害となる影響が出る薬は限られています。お母さんに投与された薬の大部分は、主に血液と乳汁の濃度勾配に基づく単純な拡散により母乳中に移行すると考えられ、その量は少なく、お母さんが内服した量の1%以下と考えられています。ユニセフやWHOでは「ほとんどの薬は非常にわずかながら母乳に移行するが、赤ちゃんに影響のあるものはほとんどなく、授乳をやめる事の方が薬を服用するより危険である」と発表しています。母乳に移行した薬物が赤ちゃんにどんな影響を与えるか、すべての薬について分かっているわけではありません。しかし、一般的に処方される抗生物質の多くや解熱鎮痛薬に関しては問題ありません。また乳児や小児に多数の使用経験がある薬などは安全性が高いと考えられます。

 

授乳中の使用に注意が必要な薬iga

薬の特性から赤ちゃんに影響をおよぼす可能性がある薬として、抗がん剤や代謝拮抗薬、放射性物質を含む薬などがあります。授乳を永久的に中止するか、一時的な中断で済むかは個々の薬やお母さんの状況に応じて異なります。また、授乳中に使用する際に注意が必要な薬を右記表に示しますが、これらの薬を使用する場合についても、必ずしも授乳を禁止しなければならないわけではありません。服用している薬の量や乳汁移行する量には個人差があるため、お母さんや赤ちゃんの状態ともあわせて判断します。

 

 

授乳と薬に関する情報

1 個々の薬についての情報は妊娠と薬情報センターのウェブサイト
http://www.ncchd.go.jp/kusuri/index.htmlを参考にしてください。ここは厚生労働省の事業として2005年に相談業務を開始した日本最大の相談センターです。授乳に関しても相談を開始しており、すでに充分な相談実績があります。ウェブサイト上には無料で情報が公開されており患者さん本人が閲覧することが出来ます。

2 妊婦授乳婦薬物療法認定薬剤師

「妊娠・授乳期における専門知識、技術、倫理観により、妊娠・授乳期に特有な母体の変化と、次世代への有害作用を考慮した薬物療法を担い、母子の健康に貢献することを目的とする」制度で、試験を行った上で日本病院薬剤師会が認定した資格です。患者さん本人や医師などの相談に対してアドバイスできる薬剤師です。佐久地域には佐久医療センターに1名在籍しています。

 

おわりに

授乳中のお母さんが適切な情報に基づいたアドバイスを受け、最終的にはお母さん自身が病気の治療や授乳をどうしていくのかを選択する事が望ましいと考えます。