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(2016年1月1日)
水嶋クリニック (☎0267-63-5353) 水嶋 丈雄 院長
漢方薬と現代感冒薬の違い
漢方薬はどのような病気に効くかというと、まず感冒です。新型インフルエンザが、高齢者より若年者が重症になったのを覚えていますか。これは生体内の炎症を起こすサイトカインという微小のホルモン様物質が関係しているのです。漢方薬にはこの生体内のサイトカインを調整する働きがあります。感冒の初期に葛根湯という風邪薬がよく使われます。現代薬の感冒薬が胃腸に障る方が多いためですが、葛根湯の何が風邪に効いたのかと考え、麻黄という成分のエフェドリンが良いらしいとすると、それを抽出して感冒薬をつくるのが現代感冒薬なのです。しかし、麻黄は風邪に良く効きますが、交感神経を刺激して胃腸障害を起こすので、胃腸障害を起こさないように副交感神経の刺激薬である甘草を加えよう、背中が張るから筋肉のこわばりをとる葛根を加えよう、とできあがったのが葛根湯という漢方薬なのです。つまり現代医学が有効成分を限定して抽出する引き算の学問なのに対して、漢方薬は副作用を抑えるためにいろいろな生薬を加えていく足し算の学問なのです。同じ感冒でも漢方薬の場合には生体の状態によって、胃腸が強いか弱いか、免疫の状態はどうかというようにいろいろと変化していきます。つまり患者さんの数ごとに、病気の時期ごとに、漢方薬の数があるのです。ですから漢方薬は無数にあるといっても過言ではありません。
漢方薬の処方について もちろん漢方薬にも副作用がある場合があります。それゆえに患者さんの詳しい体質検査が必要になります。まず舌診では黄色い苔がついている方は体内にうつ熱という炎症性サイトカインが存在するといわれます。これがひどくなると現代医学での炎症のマーカーCRPが陽性になるのですが、漢方では少し早い段階でそれを見つけられるのです。この場合には黄連や黄芩・黄柏という抗炎症作用のある生薬を用います。感冒でしたら黄連湯などです。黄柏はキハダという木の皮を用います。御岳百草丸で有名です。舌に白い苔があれば、体内に余分な水分があるということです。胃腸虚弱などでむかむかがある場合には茯苓・沢瀉といった茸を使います。この茸は脳内圧を下げることが知られています。舌が乾燥している場合には体内の循環血漿量が減少していると考えられます。現代医学では点滴などで補充するのですが、漢方では麦門冬や薬用人参を用います。これには、体内のコルチゾールの分解酵素を抑制することによって循環血漿量を維持する働きがあります。ですから冬場の乾燥傾向の風邪には麦門冬湯を用います。次に脈を診察します。手首の脈を3本の指で診察します。手首の骨の最も高いところは血管の中の循環血漿量を診るのに適しています。その手前は血管の中の血流速度を診ます。最も手首に近いところは異常循環血漿量があるかどうかを診ます。異常循環血漿量は風邪や心身症で起こります。血管の中の循環血漿量は飲食物の消化吸収量と自律神経に規定されます。血流速度は甲状腺と副腎ホルモンで規定されます。それゆえに患者さんの右手は末梢から肺・脾(消化吸収)・腎陽(副腎)、左手は心・ 肝(自律神経)・腎陰(コルチゾール)を示すといわれます。また腹部の力と圧痛からも診断ができます。あばらの下の圧痛は胸脇苦満といい、炎症による異常リンパの鬱滞が自律神経の異常による横隔膜の収縮を示します。リンパの鬱滞には柴胡と黄芩というペアを、自律神経には柴胡と芍薬のペアの漢方薬を処方します。このように患者さんの体の状態を詳しく調べ、漢方薬を組み立てていくのです。
東洋医学と現代医学の総合診療 漢方薬の特徴を活かすと、感冒以外にも自律神経系の疾患やホルモン異常などにも漢方薬は効果を示すことがあります。免疫を上げる作用を活かして免疫低下の状態に応用することもあります。例えば自律神経失調症に香蘇散を用います。これは紫蘇つまり大葉が入った漢方薬ですが、気分がすぐれない、気力が低下する、夜眠れないなどの状態に用います。ホルモン異常では更年期障害が有名です。加味逍遥散という漢方薬を用います。これは柴胡と芍薬のペアですが、顔がほてる、手足が冷える、なんとなくイライラするといった症状に適応します。しかし、最も重要なことは、手術が必要な疾患や、すぐに抗生物質で炎症を取らないといけない場合などは、現代医学の治療が必要だということです。そのためにまず現代医学の診断をしてから、漢方薬の適応があるかどうかを見極めて処方します。
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漢方薬というと古いイメージがあります。たしかにその原点は2000年前の中国にありますが、現代ではエキス製剤として約120種類が、生薬として約150種類の漢方薬が保険で認可されています。いわゆるエビデンスという、処方に対する証拠も多々示されており、現代医学にはなくてはならない存在になっています。
水嶋クリニック (☎0267-63-5353) 水嶋 丈雄 院長
漢方薬と現代感冒薬の違い
漢方薬はどのような病気に効くかというと、まず感冒です。新型インフルエンザが、高齢者より若年者が重症になったのを覚えていますか。これは生体内の炎症を起こすサイトカインという微小のホルモン様物質が関係しているのです。漢方薬にはこの生体内のサイトカインを調整する働きがあります。感冒の初期に葛根湯という風邪薬がよく使われます。現代薬の感冒薬が胃腸に障る方が多いためですが、葛根湯の何が風邪に効いたのかと考え、麻黄という成分のエフェドリンが良いらしいとすると、それを抽出して感冒薬をつくるのが現代感冒薬なのです。しかし、麻黄は風邪に良く効きますが、交感神経を刺激して胃腸障害を起こすので、胃腸障害を起こさないように副交感神経の刺激薬である甘草を加えよう、背中が張るから筋肉のこわばりをとる葛根を加えよう、とできあがったのが葛根湯という漢方薬なのです。つまり現代医学が有効成分を限定して抽出する引き算の学問なのに対して、漢方薬は副作用を抑えるためにいろいろな生薬を加えていく足し算の学問なのです。同じ感冒でも漢方薬の場合には生体の状態によって、胃腸が強いか弱いか、免疫の状態はどうかというようにいろいろと変化していきます。つまり患者さんの数ごとに、病気の時期ごとに、漢方薬の数があるのです。ですから漢方薬は無数にあるといっても過言ではありません。
漢方薬の処方について
もちろん漢方薬にも副作用がある場合があります。それゆえに患者さんの詳しい体質検査が必要になります。まず舌診では黄色い苔がついている方は体内にうつ熱という炎症性サイトカインが存在するといわれます。これがひどくなると現代医学での炎症のマーカーCRPが陽性になるのですが、漢方では少し早い段階でそれを見つけられるのです。この場合には黄連や黄芩・黄柏という抗炎症作用のある生薬を用います。感冒でしたら黄連湯などです。黄柏はキハダという木の皮を用います。御岳百草丸で有名です。舌に白い苔があれば、体内に余分な水分があるということです。胃腸虚弱などでむかむかがある場合には茯苓・沢瀉といった茸を使います。この茸は脳内圧を下げることが知られています。舌が乾燥している場合には体内の循環血漿量が減少していると考えられます。現代医学では点滴などで補充するのですが、漢方では麦門冬や薬用人参を用います。これには、体内のコルチゾールの分解酵素を抑制することによって循環血漿量を維持する働きがあります。ですから冬場の乾燥傾向の風邪には麦門冬湯を用います。次に脈を診察します。手首の脈を3本の指で診察します。手首の骨の最も高いところは血管の中の循環血漿量を診るのに適しています。その手前は血管の中の血流速度を診ます。最も手首に近いところは異常循環血漿量があるかどうかを診ます。異常循環血漿量は風邪や心身症で起こります。血管の中の循環血漿量は飲食物の消化吸収量と自律神経に規定されます。血流速度は甲状腺と副腎ホルモンで規定されます。それゆえに患者さんの右手は末梢から肺・脾(消化吸収)・腎陽(副腎)、左手は心・ 肝(自律神経)・腎陰(コルチゾール)を示すといわれます。また腹部の力と圧痛からも診断ができます。あばらの下の圧痛は胸脇苦満といい、炎症による異常リンパの鬱滞が自律神経の異常による横隔膜の収縮を示します。リンパの鬱滞には柴胡と黄芩というペアを、自律神経には柴胡と芍薬のペアの漢方薬を処方します。このように患者さんの体の状態を詳しく調べ、漢方薬を組み立てていくのです。
東洋医学と現代医学の総合診療
漢方薬の特徴を活かすと、感冒以外にも自律神経系の疾患やホルモン異常などにも漢方薬は効果を示すことがあります。免疫を上げる作用を活かして免疫低下の状態に応用することもあります。例えば自律神経失調症に香蘇散を用います。これは紫蘇つまり大葉が入った漢方薬ですが、気分がすぐれない、気力が低下する、夜眠れないなどの状態に用います。ホルモン異常では更年期障害が有名です。加味逍遥散という漢方薬を用います。これは柴胡と芍薬のペアですが、顔がほてる、手足が冷える、なんとなくイライラするといった症状に適応します。しかし、最も重要なことは、手術が必要な疾患や、すぐに抗生物質で炎症を取らないといけない場合などは、現代医学の治療が必要だということです。そのためにまず現代医学の診断をしてから、漢方薬の適応があるかどうかを見極めて処方します。