佐久医療センターではそけいヘルニアの治療のほとんどのケースに、傷と痛みが小さくて元の生活への回復がより早い、腹腔鏡カメラを使った手術を行っているので紹介させて頂きます。

 

JA長野厚生連　佐久総合病院
佐久医療センター　消化器外科　（☎0267-62-8181）　秋山 岳　医師

 

 

そけいヘルニアってなあに？

「そけい」は足の付け根のあたりのことをいい、「ヘルニア」は体の組織が正しい場所からはみ出た状態をいいます。そけいヘルニアとは、お腹の中にあるはずの腸がそけいの出入り口から飛び出る状態で、脱腸とも呼ばれます。

 

放っておくとどうなる？

症状は膨らみや痛みですが、放っておくと膨らみや痛みは大きくなり手術が難しくなります。ですから、日常生活への復帰はもとより、ゴルフや温泉、薪割り、スキーなどアクティブな生活を不安なくエンジョイするためにも早めの治療をオススメしています。稀に飛び出た腸が戻らない嵌頓（かんとん）状態になって、腸を切る緊急手術が必要になりますが、一方で何年も無症状で膨らんだままの方もいて、正確な予測はできません。

 

どんな治療方法があるの？

 そけいヘルニアは生活指導や薬では良くなりません。最も効果のある治療が手術です。そけいを圧迫するベルトが販売されていることもありますが、一時的に症状を抑えるだけで、膨らみのないそけいに戻れるわけではない上に、不適切に腸を挟んだまま圧迫される可能性があるため、医療機関から使用を薦めることはほぼありません。

 

どんな手術があるの？

そけいにメスを入れて直接見て触る手術と、臍からカメラを入れてテレビモニターを視ながら行う腹腔鏡手術があります。そけいを切る方法は局所麻酔でもできるので道具や麻酔科医の準備がいらない手軽な手術ですが、当院では痛みが小さく日常生活への復帰が早いという理由でほとんどの方に腹腔鏡手術を行っています。

 

腹腔鏡を使って、どのくらい痛みが楽になったの？

「退院はできるけど元の生活に支障ある痛み」は術後7日間以上続くのが当たり前でしたが、腹腔鏡手術では「術後2〜4日で元の生活」という方が多いです。また、従来の手術では約9％の方が何かしらの痛み、違和感を半年以上訴えられ「仕方のないこと」とされていましたが、腹腔鏡手術ではそういった術後長引く痛みは1％未満といわれています。

 

具体的なスケジュールは？

手術当日に入院頂き、手術は1〜2時間です。術後3時間で歩行や飲水が可能で、術後5時間以降に食事が再開され、問題なければ食事再開の翌日に退院が許可されますので入院は1泊2日か2泊3日です。退院日から入浴や散歩は可能で、立ち仕事や軽いスポーツは7日前後、強い負荷のかかる肉体労働や薪作りは1ヶ月程度控えてもらうようお話しています。

 

私も受けられる？

そけいヘルニアの大きさやタイプ、病悩期間（病気に悩まされてきた期間）に関わらず腹腔鏡手術を行うことは可能です。ただし腹腔鏡手術は全身麻酔が必要なので、心臓や肺に持病のある方は主治医や麻酔科医の許可が必要です。診察では患者さんの希望や身体状態、活動度などから、最適な手術方法を一緒に考えています。

 

腹腔鏡で手術する欠点は？

麻酔と手術で手術室滞在時間が長いこと、麻酔科医による全身麻酔や腹腔鏡専用の道具を使うことによる費用の追加、などです。腹腔鏡手術はもちろん保険診療ですので、年齢、所得、保険の種類に応じた自己負担限度額があります。詳細はお問い合わせください。

 

腹腔鏡で手術する利点は痛みの小ささと回復の早さだけ？

反対側の初期ヘルニアが診断できる、左右のそけいヘルニアを同じ傷で手術できる、なども腹腔鏡手術の利点です。また、そけいを皮膚切開しないので陰毛の除毛、剃毛の必要がないことにホッとされる方もいらっしゃいました。そして以前手術したけど再発してしまった方への再手術としても、違うルートから修復する腹腔鏡手術は勧められており、当院でも適応にしています。

 

最後に

従来のそけいにメスを入れる手術は広く普及していますが、腹腔鏡手術を導入している施設は限られています。そけいの膨らみがヘルニアかもしれないとお気づきの際は、腹腔鏡手術のことを思い出してみてください。当院では紹介型病院として月曜日と木曜日にヘルニア外来を設けておりますので、受診を一考頂ければと思います。