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顔面神経麻痺

「月刊ぷらざ佐久平 平成25年6月号」掲載

細川 晃 医長顔面神経麻痺とは、片目が閉じない、笑うと顔の表情が非対称でどちらかに引っ張られる、口角から水がもれてしまう、などの症状で患者さんは気付いて病院を受診します。その病気の病態と対処について今回はお話します。

 

佐久市立浅間総合病院 耳鼻咽喉科(☎0267-67-2295) 細川 晃 医長

 

 

顔面神経麻痺の原因と頻度

顔面神経はすべての末梢神経の中でも最も頻繁に麻痺を起す神経です。有名な原因としては、水痘―帯状疱疹ウイルス(VZV:varicella zoster virus)で生じるラムゼイ・ハント症候群(顔面神経麻痺全体の15%)があります。これは、耳痛や耳介の水疱、発赤などを伴い、顔面神経麻痺だけでなく、めまいや難聴を伴うこともあります。また、中耳炎(4%)や外傷(6%)、耳下腺腫瘍、小脳橋角部腫瘍、脳梗塞などでも生じますが稀です。
しかし、圧倒的に多いのはベル麻痺(60%)と言って原因不明のものであり、最近ではその一部が単純ヘルペスウイルスによるものもあると言われています。脳梗塞で顔面神経麻痺を生じることも稀にありますが、手足の麻痺やしびれ、意識障害などの症状を伴うことが多く、顔面神経麻痺も額のしわ寄せは可能で顔下半分の不全麻痺の形をとります。一方、一般的な顔面神経麻痺は末梢性の障害です。

 

顔面神経の機能

顔面神経は運動、知覚、味覚、唾液分泌などの色々な機能を持った特殊な神経です。運動の機能には、顔面の表情をつくるのはもちろんのこと、鼓膜の奥にある耳小骨(あぶみ骨)に付着するあぶみ骨筋に枝をだしています。この筋の作用は、鼓膜を通して大きい音が入ったときに反射的にあぶみ骨筋を収縮させることで鼓膜の振動を抑え、大きい音を内耳に伝わらないようにする作用を持っています。また、舌の前3分の2の味覚は顔面神経で感じとっています。顎下腺、舌下腺などの唾液腺や涙腺も顔面神経の指令で唾液や涙を分泌しています。また、耳介の後方と外耳道の後方の知覚も顔面神経が担っています。

 

図1顔面神経の走行

運動、知覚、味覚の機能をもつ顔面神経の中枢は大脳の皮質の両側にあります。大脳を下行した顔面神経は、顔面神経核のある脳幹の橋に中継した後、内耳道を通ります。顔面神経は、内耳道から側頭骨(耳の骨)の骨のトンネル(顔面神経管)を通って、耳下腺の中央を貫き、顔面の表情筋に分布します。この側頭骨内で顔面神経は、まず涙腺などに枝をだし、涙を分泌させます。次に、あぶみ骨筋に分枝し、大きい音が内耳に直接入らないよう働いています。次に、舌の前
3分の2に分布し、味覚をつかさどっています。そして、最後に顔面の表情筋(前頭筋、眼輪筋、頬筋、口輪筋など)に分布し、顔の表情を作っています(図1)。

 

顔面神経の検査

以上でお話した機能を調べるために、顔面神経の検査には、涙分泌検査、あぶみ骨筋反射、味覚検査があり、それぞれを検査することで部位診断を行います。また、顔の表情を額、目、鼻翼、口などの動きをそれぞれ点数化することで顔面神経麻痺の程度を評価します。
また、治療後の顔面神経の予後判定として、
ENoG(Electroneuronography)と神経興奮性検査(NET)を行います。ENoGは、電気刺激で耳下腺内にある顔面神経を刺激して、口輪筋などの筋電図を左右で比較し、健側に比べて患側が20%以上残っている場合は予後良好であると推測されます。NETは肉眼的に動く最少閾値電流を比較し、3.5mA以内の差の場合は予後良好と推測できる検査です。

 

図2顔面神経麻痺の経過

一般的な末梢性の顔面神経麻痺は、発症2、3日で麻痺は進行していき、約4日~7日で顔面の動きがなくなります。なぜかというと、顔面神経は側頭骨の骨のトンネル(顔面神経管)の中を走行しており、患者さん各々によって神経と骨の隙間に微妙な違いがあります。また、原因も違いますので、神経の腫れ方も差がでます。顔面神経が障害をうけると、側頭骨内の骨のトンネル内で神経の腫れが生じ、周囲の骨でさらに圧迫を生じ、血流も途絶え、脱神経を起こす結果となってしまいます(図2)。ただし、腫瘍、梗塞などの原因の違う顔面神経麻痺の場合は、これには当てはまりません。

 

顔面神経麻痺の治療

一般的な末梢性の顔面神経麻痺は早期に治療を行うことが必要で、発症すぐにステロイド大量療法を行うことによって神経の腫れを抑え、いかに脱神経を起こさないようにするかが、きれいに回復するかどうかの鍵となります。ステロイドを少量でなく大量に使うことで、神経の腫れをしっかり抑え、骨による絞扼を減らすことが重要です。また、ウイルス感染が強く疑われれば、抗ウイルス剤を1週間同時に投与し、そうでない場合でも当院では3日間投与しています。

 

顔面神経麻痺に気付いたら?

まず早めに耳鼻科を受診することが必要です。患者さんのできる最善のことは、まだ顔の動きがあるから大丈夫と思わず、気づいたときに早く受診することにつきます。末梢性の顔面神経麻痺は、2、3日で徐々に悪くなる経過だからこそ、その時に治療を開始することが大切です。

 

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