ぷらざINFO/教えてドクター みんなの医学

まれではないムンプス(流行性耳下腺炎、おたふくかぜ) による難聴

「月刊ぷらざ佐久平 平成24年9月号」掲載

菅原 敏明 院長
従来、まれな合併症として考えられていたムンプス難聴が、最近の調査によりムンプスに罹った人の約1000人に1人程度の発生頻度であることが明らかになりました。ムンプスの自然宿主はヒトのみの為、予防接種で排除可能と考えられていて、WHOはMMR(麻疹、ムンプス、風疹)ワクチンの2回接種を推奨しています。これにより、日本を除く先進国ではムンプスの患者数は激減し、ムンプス難聴の発生も極めてまれになっています。しかしムンプスワクチンの予防接種率が10~30%程度の日本では、ムンプスは3~4年周期の流行を繰り返し、現在もムンプス難聴の発生は続いています。

 

佐久中央医院(☎0267-63-1001) 菅原 敏明 院長

 

igaku63_03ムンプス(流行性耳下腺炎、おたふくかぜ)とは

ムンプスはムンプスウイルスによる急性ウイルス性の全身感染症です。好発年齢は4~6歳ですが、その親の世代の30代にも多くみられます。ヒトからヒトへは飛沫感染で、患者に直接接触したり、唾液により間接的にも感染します。2~3週間(平均18日前後)の潜伏期間の後、発熱、両側あるいは片側の唾液腺(耳下腺、顎下腺)の腫れと痛みで発症します。耳下腺の腫れは2~3日でピークに達して7日前後で軽快します。感染しても発熱や耳下腺の腫れなどの症状がない不顕性感染も20~30%程度みられます。罹患する年齢が高くなると合併症の頻度が高くなります。合併症としては、3~10%の頻度で髄膜炎、0.5~0.01%で難聴、思春期以後に罹った時には約25%で精巣炎、5%で卵巣炎がありますが、多くの場合は片側性ですので不妊になることはまれです。また4%程度に膵炎を合併します。その他はまれではありますが、脳炎、甲状腺炎、乳腺炎、腎炎、自然流産などもみられます。これらの合併症は不顕性感染でも起こります。

ムンプス難聴とは

ムンプスに、自然にかかった人の約1000人に1人程度に合併し、日本では新たに500~2000人の患者さんが発生していると考えられます。ムンプスウイルスが内耳に直接侵襲し内耳の有毛細胞が障害された結果、片側性ないし両側性(ただし両側性は非常にまれ)の高度な感音性難聴となるもので、後天的に急性発症し高度難聴をきたす代表的な病気です。この難聴には有効な治療法はなく、極めて高度な永続性の難聴として障害を残すことになります。ほとんどの場合片側性ですので一見あまり生活には困らないように思われますが、両側聴ができないので音の方向が判らない、障害側での小さな音が判らない、騒がしい所では聞き取れない等の不自由さ、そして一見普通に見えるので(補聴器をつけていない)、音が上手く聞き取れないことによる対人関係の悪化(無視したように思われてしまう等)など生活に対する影響は決して小さくありません。

igaku63_02ムンプスワクチン接種によりムンプス難聴を防ぐ

ムンプス難聴には有効な治療法がないためムンプスワクチン接種が唯一の予防法となっています。ムンプスワクチンは弱毒生ワクチンで有効率は80~90%です。ムンプスワクチン接種での合併症を心配される方も多いと思いますが、表で示しますように自然感染に比べ合併症の発生率は低いと考えられます。

最後に

ムンプスは日本では流行を繰り返すありふれた感染症のため、その疾患及び合併症に対する理解の不足から、自然感染を待つような風潮になっていることは否めません。ムンプスワクチンは任意接種であることもあり、その接種率は30%程度に留まっています。予防接種率を85~90%以上に保つと、集団免疫によりムンプスの流行をなくすことが出来ます。実際、MMRワクチンの2回接種を行っている国ではすでにムンプス患者の発生は激減しており、ムンプス難聴もほとんどみられません。まだムンプスに罹っていなくてムンプスワクチン接種を行っていない方は、ムンプスワクチンの接種について御一考をお願いします。わが国においてもムンプスワクチンの定期接種化にむけた検討が行われています。

 

社団法人 佐久医師会
〒385-0052 佐久市原569-7
TEL0267-62-0442 FAX0267-63-3636
http://saku-ishikai.or.jp