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生活習慣病の原因と予防

「月刊ぷらざ佐久平 平成24年3月号」掲載

佐久市国保浅科診療所(☎0267-58-2100) 川妻 史明 所長

 

生活習慣病の改善

浅科診療所で主に生活習慣病(高血圧・高脂血症・糖尿病)の患者さんを診るようになり5年が経ちました。生活習慣病は体質に合わない生活習慣(塩分・油・糖分の摂りすぎ)が原因で、その改善が根本治療です。努力で良くなる方もいますが、なかなか改善できない方や自分の習慣を自覚していない方もいて、その場しのぎの薬物療法になっている方も多いです。生活習慣を改善すれば、数値が良くなるだけでなく身体も若々しく元気になり、同じ生活をしている子どもや孫にも良い影響を与えるため、生活習慣の改善に主眼をおいて日々診療しています。血圧の高い家系では、食塩に弱い体質なのに減塩ができないので、みんな将来血圧が上がってしまうことになるのです。長野県民健康栄養調査によると食塩接種の基準である男性9g未満、女性7.5g未満を超えている人は9割を占め、血圧の高い人は全体の4割もいます。自分では「普通」のつもりでも、病気になる可能性があるのです。

 

暖房について考える

「暑さ寒さも彼岸まで」と言いますが、佐久の3月は春の日差しになってもまだ寒いと感じる方も多いと思います。高齢の方の中には、昔は今よりはるかに寒かったはずなのに「昔はそんなに寒くなかった」とおっしゃる方が時々いらっしゃいます。私も長野県に来た当初は寒くてどうしようもなかったのですが、ある方から「着寒」という言葉を教わり驚きました。「着寒」とは、服を着て暖かくなると身体が温かい環境に慣れて熱を出さなくなるため、また寒く感じるようになるという意味だそうです。今の生活からは想像もできませんが、昔は暖房も服もあまりなかったのにみんな平気で暮らしていたそうですね。人間も恒温動物(体温を保つ能力を備えている)の一種で、本来暖房のいらない体質なのです。
冬にたくさん服を着て暖房を20℃に設定しても寒いという方がいらっしゃいますが、20℃といえば佐久では8月末頃の温度、2月初旬の沖縄の最高気温なので、本来なら重ね着では暑いと感じるのが普通かもしれません。冬になると身体が痒くなるのも過剰な暖房が一因でしょう。外来患者さんでも病院の中が寒いとおっしゃる方もいれば、時々汗をかいている方もいます。人間の温度感覚は個人差が大きく、普段の生活に大きく影響されます。風呂に入ると、最初熱いと思ってもすぐに熱く感じなくなることは経験されていると思います。これを生理学では順応といいます。温かくても寒くても次第に慣れるので、冬は快適と感じるまで温めずに少し寒いと感じるくらいの場所で体を慣らすことが、後述の基礎代謝の低下を防ぐためにも重要です。ちなみに25℃以上に設定する人が時々いますが、最高気温25℃は夏日、夜間の最低気温25℃は熱帯夜といいます。普段私は家で暖房を使いませんが、暖房を使っている子どもは正月に実家の大阪に連れて帰った時、大阪は暖房を使わず炬燵だけで過ごすため、慣れるまで寒いと言っていました。暖房する長野の冬は暖房しない大阪の冬より暖かく、無駄なエネルギーを使って身体を弱くしていると言えます。また、暖房の設定温度は低くても、吹き出す風はかなり熱いので注意が必要です。
快適と感じる温度は25℃くらいと言われていますが、25℃に慣れてしまうと20℃や10℃は寒く感じ、0℃の外には寒くて出られません。逆に0℃そこそこで暮らしていると20℃どころか10℃でも暖かく感じます。佐久病院の若月先生が昭和36年に暖房の実験をした時に-2℃から-4℃の部屋を10度に温めようとしたのですが、おばあさんが「実はおじいさんに消しとけと言われてとめやした。10℃もあるし、あまり暑いと具合が悪くなりやすでなあ」と言っていました(※1「衛生指導員ものがたり」より)。薬を使わない小児科医の真弓定夫先生によると、冷えは暖房することによって上半身が熱くなり、足元との温度差ができて、頭寒足熱に反することで起きる現象(※2「37℃のふしぎ」より)です。暖房の無い時代には寒いのが当たり前で冷え症という言葉すらなかったことでしょう。炬燵は他の暖房に比べ消費エネルギーも少なく頭寒足熱にもなり効果的です。なお、外気温と室内の温度差は大人では10℃、子どもでは5℃以内が良いそうです。

冬太りとは

冬太りという言葉がありますが、これは寒い地方のみの現象のようです。
食べて体に入ったエネルギー全体に対し、消費エネルギーの約6割は体温を保つなどの基礎代謝で、運動はわずかに3割程度なのに、冬は運動不足で太るとおっしゃる方がいます。
寒い時期は、体温を保つためにエネルギーが多く必要となり、食欲が増します。ところが、暖房すると熱が少なくすみ、その差が余るので太ります。この基礎代謝が暖房の使用とともに年々下がっており、子どもの低体温や肥満の増加の一因と考えられます。昔は質素に元気に暮らしていましたが、今では節電の声もむなしく、過剰な食べ物と暖房と車で快適になった一方で、身体が弱くなり、冬は特に太りやすくなっているのでしょう。便利になって気がつかないことかもしれませんが、道具を使うということは人間が本来持っている機能を失うことかもしれません。

子孫のために

エネルギー自給率5%の日本にあって佐久市のCO2排出量は全国平均の2倍という統計もあり、「寒いから」といって「暖かく快適になる」まで暖房するのは過剰と思われます。
2〜3世代前まで殆ど使っていなかった化石燃料を簡単・快適・便利だからといって次の2〜3世代で使い切るのは身勝手でしょう。次世代のためにも節約が必要で、出来るはずです。昔はそれが当たり前だったのですから。