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便失禁について ~仙骨神経刺激療法を中心に~

便失禁とは「自らの意志に反して便が漏れる状態」と定義されています。命にかかわる疾患ではありませんが、生活の質に深くかかわってくる疾患です。今回は便失禁、特に仙骨神経刺激療法について解説いたします。当院は本治療の長野県唯一の認定施設です。便失禁でお悩みの方、お気軽に当院外科外来までご相談ください。

 

佐久市立浅間総合病院 外科 (☎0267-67-2295) 富岡 寛行 医師

 

 

原因は

原因疾患は様々です。代表的なものとして、①直腸肛門疾患の手術後、②内科的治療中の炎症性腸疾患・過敏性腸症候群、③分娩による肛門括約筋損傷、④脊柱管狭窄症・椎間板ヘルニア・外傷等による脊髄障害、⑤放射治療後、⑥特発性(原因不明なもの)、が挙げられます。

 

便失禁の治療

 1.治療ガイドライン

ガイドラインではまず保存的療法を行い、十分な効果が得られない場合は外科的療法を推奨しています。

2.保存的療法

①『食事・生活・排便指導』繊維成分の多い食事、アルコール摂取制限、カフェイン制限、そして規則的な排便習慣、以上の実践を指導いたします。②『骨盤底筋体操』おしりをしめたりゆるめたりする運動ですが、朝昼晩の実践を指導いたします。③『薬物療法』便をゲル化させるポリカルボフィルや、下痢止めであるロペラミドを処方します。

3.外科的療法

現在国内で承認されているのは、括約筋修復術、順行性洗腸、人工肛門造設、そして仙骨神経刺激療法の4療法です。本稿のメインテーマである仙骨神経刺激療法は多くのケースに対して第1選択肢となる外科的療法です。

 

仙骨神経刺激療法

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1.どんな治療か

仙骨神経刺激療法は排便に関連した神経を心臓ペースメーカーに似た小型の刺激装置(図1)で継続的に電気刺激し、症状の改善を図る治療方法です。本治療は尿失禁に対する治療として始まりましたが、便失禁症状も改善することが明らかとなりました。アメリカで1997年に尿失禁、2011年に便失禁に対して承認を受け、我が国でも2014年に便失禁に対して保険収載されております(尿失禁に対しては国内未承認)。世界における実施件数は、尿失禁、便失禁の合算になりますが20万件を超えております。国内では現在150件以上に実施されております。

2.治療の進め方

仙骨神経刺激療法はリード線植込み、試験刺激、刺激装置植込み、治療継続の4つのステップから成り立ちます(図2)。①『リード線植込み』レントゲンをガイドに第3仙骨孔からリード線を挿入します。1〜2時間の手術で、1週間程度の入院が目安です。②『試験刺激』リード線を体外刺激装置に接続します。約2週間試験刺激を行い、効果が得られた方のみ刺激装置植込みに進みます。③『刺激装置植込み』リード線を刺激装置に付け替え、臀部皮下に植込みます。約30分の手術で、2〜3日の入院が目安です。④『治療継続』基iga02本的に24時間365日刺激を行い、刺激装置内のバッテリー残量がなくなると交換が必要となります。使用する電圧にもよりますが、5年以降での交換が目安です。

3.適応・注意事項

保存的治療が無効な便失禁患者、かつ試験刺激で症状の改善が得られた方のみ刺激装置植込み術の適応となります。電磁干渉の問題からMRI検査は併用禁忌となるため(頭部は条件付きで可)、患者手帳の携帯や他科・他院受診時には仙骨神経刺激療法についての申告をお願いしております。本治療には高額療養費制度が適応されます。年齢、収入にもよりますが、約10万円前後の自己負担となります。

4.治療成績

2012年実施の国内臨床試験の結果でも植込み実施患者さんの86%で便失禁回数が50%以上減少し、この結果を受け2014年に保険収載されました。

 

まとめ

 仙骨神経刺激療法は、①低侵襲かつ有効性の高い治療である、②試験刺激による有効症例の選別及び元の状態に戻すことが可能な治療である、③保存療法が無効な便失禁患者への第1選択肢となる治療である、とまとめさせていただきます。