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小児の食物アレルギー

「月刊ぷらざ佐久平 平成26年3月号」掲載

浅間総合病院 小児科 中沢 孝行 医師
以前の食物アレルギーの診療は厳格除去食療法ともいわれ、疑わしい食物も含めた完全除去が基本でした。血液検査の結果だけで、曖昧な判断をして過剰に除去をすることもありましたが、食物アレルギーの解明が進むにつれて治療・管理も変わってきています。現在では、「正しい診断に基づいた必要最小限の原因食物の除去」が大原則となっており、そのためには食物経口負荷試験(食物を食べて症状が誘発されるかをみる検査)が重要です。

 

浅間総合病院 小児科(☎0267-67-2295)中沢 孝行 医師
(4月から佐久総合病院に勤務予定)

 
近年、アレルギー性疾患(食物アレルギー・アトピー性皮膚炎・気管支喘息・花粉症等)は増加傾向にあり、また、若年化しています。その中でも食物アレルギーは早期に発症することが多く、その他のアレルギー性疾患の発症にも関与していることがわかってきました。また、学校給食での食物アレルギーによる死亡事故や小麦成分を含んだ石鹸による小麦アレルギーの発症等の事例が報告され、社会的関心が高まってきています。

 

食物アレルギーとは

食物アレルギーとは、「食物によって引き起こされる抗原特異的な免疫学的機序を介して生体にとって不利益な症状が惹起される現象」とされています。
アレルギー反応には、体内に原因物質が侵入し、それに対し抗原特異的IgE抗体が産生される「感作」という段階があり、その後再び侵入したときにさまざまなアレルギー症状が引き起こされる「症状惹起」という段階があります。
以前は食物を口から摂取することで症状が引き起こされる現象を食物アレルギーと定義していましたが、最近は、感作・症状惹起での皮膚からの原因食物の侵入がクローズアップされています。

 

食物アレルギーの症状

食物アレルギーには食物摂取後2時間以内に現れる「即時型」と、数時間から半日後に現れる「遅発型」さらに、48時間以降に現れる「遅延型」があります。症状としては蕁麻疹・湿疹等の皮膚症状、眼瞼浮腫・鼻汁・口腔内違和感等の粘膜症状、腹痛・嘔吐・下痢等の消化器症状、咳・呼吸困難等の呼吸器症状、重症になるとアナフィラキシーショックという命をおびやかす状態に至る場合もあります。

 

アレルギーの原因食物アレルギーの分類

食物アレルギーは症状・好発年齢等により、5つに分類されます。

 
①新生児・乳児消化管アレルギー
新生児期にミルクの摂取により嘔吐・下痢・血便等の症状で発症します。このタイプは治療用ミルクの使用により、多くは1歳までに治ります。

 
②食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎
乳児期早期に顔面の湿疹で発症し、その後全身に湿疹が広がることもあります。原因食物として鶏卵・牛乳・小麦の頻度が高く、アトピー性皮膚炎自体は1歳ごろには軽快することが多いですが、即時型食物アレルギーへの移行も多く認められます。

 
③即時型食物アレルギー
乳幼児期に頻度が高く、アナフィラキシーの危険性が高い疾患です。原因食物は年齢により異なりますが(図)、鶏卵・牛乳・小麦は離乳食開始後、原因食物の摂取により症状が引き起こされ、3歳までに5割、小学校入学までに8~9割が食べられるようになります。ソバ・ピーナッツ・甲殻類等は幼児期以降に発症し、なかなか食べられるようになりません。

 
④食物依存性運動誘発アナフィラキシー
学童期から成人に好発し、原因食物としては小麦が最も多く、甲殻類が続きます。原因食物の摂取後2時間以内の運動により蕁麻疹・呼吸困難・アナフィラキシーショック等の症状が誘発されます。治癒する可能性は低く、食事・運動に注意が必要です。

 
⑤口腔アレルギー症候群
学童期から成人に多く、シラカバ等の花粉により感作され、交差抗原性のある果物、野菜の摂取により、主に口腔内の違和感等の症状が出ます。治癒する可能性は低いですが、症状は軽いことが多く、アナフィラキシーの危険性は低いです。

 

診断

問診により摂取時の症状、時間経過、発症年齢等から疑われる原因食物を推測します。次に、皮膚テストや血液検査により抗原特異的IgE抗体検査を行います。しかし、これらの検査が陽性であっても、必ず症状が出るとは限りません。診断のために最も重要な検査は食物経口負荷試験です。この検査は重篤なアレルギー症状を誘発する可能性もあり、緊急対応が十分可能な状況で行う必要があります。また、この検査は食物除去をしている患者さんに対し、食べられるようになったかを判断するためにも行われます。

 

治療・管理・予防

正しい診断に基づく必要最小限の原因食物の除去を行い、適切な栄養素を確保することが大切です。乳児期早期は、乳児アトピー性皮膚炎で発症することが多く、スキンケアをしっかり行い、新たな皮膚からの感作を起こさないようにします。また、原因食物を除去し新たな腸管からの感作を予防します。幼児期は、食べさせることを念頭に置いて食物経口負荷試験を行い、早期の除去食の解除を図ります。適切な時期に解除しないと、その食物に対する過敏性が高まり、解除が困難になることがあります。最近、学童期以降に「食べて治す」といった経口免疫療法が専門施設で試験的に行われるようになりましたが、重篤な症状を引き起こす可能性もあり、まだ一般診療では推奨されていません。アナフィラキシーショックを引き起こす可能性が高い患者さんには、「エピペン®」という携帯用の自己注射薬を処方し、症状出現時に病院に受診する前に対応してもらいます。

 

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