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かわりの胃袋で、 かわらぬ生活を!

「月刊ぷらざ佐久平 平成24年6月号」掲載

池田医師私は消化器全般の診断と手術を担当しておりますが、食に対する欲がかなりあり、そのためか専門は胃の手術です。万が一、自分が胃を切るようなことになったら、絶対に手術後も同じような食生活がしたいと常々考えております。そんなことで、20年近く前から胃を大きく切った後に、代わりの胃袋を小腸で作るという工作というかお裁縫みたいな手術をライフワークとして行っております。

 

佐久市立国保浅間総合病院 外科(☎0267-67-2295) 池田 正視 医師

 

胃袋とは?

早速、食べるお話ですみません。私たちは、1日に普通は3回食事を摂ることにより、日常生活に必要なエネルギーを獲得し、社会生活を営んでおります。このことを可能にしているのが、胃という袋状の臓器です。胃袋は1回の食事である程度の食物が入るように作られており、車で言えばガソリンタンクのようなものです。タンクが小さいと1回に入れられるガソリンが少ないため、車はすぐにガソリンスタンドに寄って、また給油しないといけないという事態に陥ります。胃袋も同じで、何らかの理由で胃が小さくなると、食べ物を貯留する袋が小さくなり、1日に食事を少しずつ何度も摂らないと生活に必要なエネルギーを得られないという事態になってしまう可能性が高いのです。つまり、人間の胃袋とは、食べた物を一旦貯めて消化し易い状態にし、徐々に胃袋の先の十二指腸へと送り込む重要な役割を持っている臓器なのです。また胃袋には、胃底部という仰向けになっても胃の中にあるものが胃袋の手前にある食べ物の通り道である食道に逆流しないようにするダムのような役割をする場所があったり、食べた物がすぐに胃の先にある十二指腸という臓器に流れて行かないように出口に幽門輪というバルブがあったりします。つまり、私たちが日常生活を快適に過ごすことが出来るようにいろいろと工夫が施されている素晴らしい臓器なのです。

胃の手術とは?

医学の発達した21世紀の世の中でも、私たちはこの大切な胃袋を全部もしくはその大部分を切り取らないといけない胃の病気にかかってしまうことがあります。胃の手術は、古くは19世紀後半から行われております。その時代には、ビルロート先生やルー先生という高名な先生がおられ、ビルロートⅠ法・Ⅱ法やルーワイ再建法という有名な胃を切った後の再建法(繋ぎ治し方)を開発されました。これらの方法は100年を経た21世紀の現代でも世界中の多くの病院が採用しております。これらの再建法は1世紀を越えて行われて来たので安全で優れた方法ではありますが、もちろん現代の社会において問題がない訳ではありません。健康な時に持っていた前述したような胃袋の仕組みを1つ、2つと失ってしまう再建法であるのは間違いないからです。そのために21世紀においても胃の手術をされた方々は、胃を切った後に出現する様々な障害(胃切除後症候群)に対処せざるを得ない状況になることが少なくないというのが現実です。

腹腔鏡手術とは?

今、世の中で盛んに行われている手術の方法に腹腔鏡手術という小さな創で胃の手術を行う方法があります。この方法は確かに創が小さいため、術後の疼痛などが少ないという手術後の早い時期の生活の質(QOL)を向上させる可能性はあります。しかし、腹腔鏡で用いられる再建法に関しては、ほとんどの病院が100年以上前から行われているビルロート先生やルー先生の方法です。つまり、胃を取るまでは21世紀の新しい手術方法ですが、再建方法は19世紀のものということになります。従って、手術後の長期的なQOLは100年前と変わらないということになります。

代用胃代用胃手術とは?

ここでご紹介する胃切除後の再建法は、空腸という長い小腸のほんの一部を使って代わりの胃袋を作る方法です。この再建法は健康な胃袋の持っていた「食物を一旦溜めて徐々に十二指腸に送りだす」働きを持っている再建法なのです。通常の再建法に比べると若干手術の時間が長くなり、腹腔鏡での手術がやや難しくなりますが、手術後の長期間にわたる胃の無い生活を考えると有益な手術方法と考えております。つまり胃を切った後も胃があった時と同じような食生活ができる可能性をもった再建法なのです。浅間病院では現在このような手術が可能と判断し、かつ患者さまのご希望があればこの再建法を採用しております。健康な胃と変わらぬ構造を持ったこの代用胃で、手術前と変わらぬ食生活とそれに伴い今まで通りの社会生活を患者さまが送れることを目指しております。詳しくお知りになりたい方は浅間病院のホームページ(http://www.asamaghp.jp/info/examination/daiyoi/)もしくは私が外来で直接ご説明させて頂きます。勿論、既に胃を切ってしまわれた患者さまで、食生活や日常生活にお困りの方がいらっしゃいましたら、それに関してもご相談に乗りますのでお気軽に受診されて下さい。病院の窓から一望できる浅間や蓼科の山々を望む風景は素晴らしく、いつまでもこの風光明媚な佐久の地で気持ち良く安心して生活して頂けるように、誠心誠意頑張って治療しております。

 

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