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糖尿病は治せるか?

「月刊ぷらざ佐久平 平成24年4月号」掲載

仲医師糖尿病は世界中で増え続けています。正確に言えば糖尿病には1型と2型とがありますが、爆発的に増えているのは遺伝と密接に関係があり、生活習慣の乱れによって引き起こされる2型糖尿病の方です。従って以下に糖尿病と言う場合は2型糖尿病を指すと考えて下さい。最近この糖尿病に関する知見が増え、新薬も登場して治療に希望の光が見えてきました。誤った広告や記事に惑わされず正しい知識を身につけましょう。

 

佐久市立国保浅間総合病院 糖尿病科(☎0267-67-2295) 仲 元司 医師

 

糖尿病は治らない…

糖尿病は風邪が治るようには治りません。遺伝子を含めここを治せばいいという原因が究明されていないからです。たとえ血糖値が改善しても血糖を上げる体質はそのままなので、食べ過ぎたり太ったりすればまたすぐに血糖値が上昇してしまいます。
糖尿病の人はすい臓由来のインスリンという血糖を下げるホルモンが十分出ないことが知られていて、診断を受けた時すでに正常の半分ほどに減少していると言われています。しかも糖尿病の期間が長くなるほどすい臓のβ細胞がインスリンを分泌する(出す)力は低下して行くので「糖尿病は進行性の病気」ということになります。治らない上に進行性…しかし諦めることはありません。

インクレチン関連薬新薬に期待

2009年12月、インクレチン関連薬という新しい分野の血糖降下薬のうち、飲み薬であるDPP4阻害薬が発売されました。この薬はインスリンの分泌を促す作用のあるインクレチンという消化管ホルモンの働きを長続きさせ、血糖値を低下させるものです。体重を増やさないこと、単独の使用では低血糖を起こしにくいこと等これまでの薬にない利点を持っており、すでに約100万人に投与されています。
DPP4阻害薬の他にGLP1受容体作動薬という注射薬もあり、こちらは食欲を減退させ体重を減らす効果があります。さらにこの分野の薬にはすい臓のβ細胞が減少するのを防いだり、増やしたりする働きがあると期待されています。残念ながらまだ動物実験の段階なので、このことだけで「糖尿病は治る病気になった」と断定するのは早過ぎますが、希望が出てきたと言ってよいでしょう。

古くて新しい薬インスリン

皆さんはインスリンという注射薬についてどんな印象をお持ちでしょうか。注射するようになったら糖尿病は重症だとお思いではありませんか?実はインスリンというのは先に述べたように、もともと我々のすい臓から分泌されるホルモンを薬にしたものです。言わば足りないホルモンを補う治療なので内服薬よりも普段の身体の状態に近いとも考えられます。ただインスリンは蛋白質なので内服できず、注射しか投与の方法がないのです。
インスリン分泌がほとんどない1型糖尿病の人はもちろん、2型糖尿病でも血糖値を低下させるために使われ、改善すれば中止できることもあります。妊娠中は内服薬が投与できず、薬を使うならインスリンしかありません。このようにインスリンを注射するようになったとしても重症とは限らないのです。
1921年に発見されたインスリンは糖尿病の薬としては最も古くから使われています。昔はブタやウシのインスリンを精製していましたが、今は超速効型や持効型など様々な種類のインスリンが遺伝子工学に基いて作られています。体内のインスリン分泌をまねて投与する強化療法を行うと、すい臓のβ細胞を長持ちさせることも可能です。注射と言っても今では使いやすいペン型注射器と極細の針のお陰で昔ほど辛いものではなくなっています。もし主治医に勧められたら嫌がらずに試してみて下さい。不安のある方は糖尿病療養指導士(CDE)の看護師や薬剤師にご相談を。

換算式透析の予防

糖尿病の合併症の一つに腎症があります。尿蛋白が出て何年か経つと最悪の場合尿毒症になり、こうなれば生命の維持のために透析療法が必要です。でも最近は血糖、血圧、コレステロールをしっかりコントロールし、しかるべき薬を使えば尿蛋白が減少したり消えたりする、つまり腎症が元に戻ることもあり得ると分かって来ました。
ただしそのためには食事療法がとても重要です。初期の頃はカロリー制限と塩分制限、進行してくれば蛋白制限が必要です。決して楽な治療ではありませんが、うまくいけば透析になるのを防げます。主治医の指示に従い専門の管理栄養士とよく相談して下さい。

HbA1cの国際標準化と目標値

最後にHbA1cについて重要なお知らせがあります。現在使われているHbA1cの値は日本国内で標準化されたJDS値とよばれるものですが4月1日から世界の標準と合わせるためNGSP値に変更されます。これはほぼJDS値+0.4%に相当します。目標値もこれに伴って従来の優5.8→6.2%未満、良6.5→6.9%未満となりますのでご承知ください。

 

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