ぷらざINFO/教えてドクター みんなの医学

脳動脈瘤の治療 血管内治療によるコイル塞栓術

「月刊ぷらざ佐久平 平成24年2月号」掲載

後藤昌三医師脳の血管が出血したり詰まったりする病気をまとめて脳卒中といいますが、その中にくも膜下出血という死亡率の高い病気があります。そのくも膜下出血の原因となるのが脳動脈瘤の破裂です。今回は、脳動脈瘤に対して近年本邦でも急速に普及してきた治療法である血管内治療によるコイル塞栓術について解説します。

佐久市立国保浅間総合病院 脳神経外科(☎0267-67-2295)
後藤 昌三 医長

 

脳動脈瘤とは

脳動脈瘤は脳の中の比較的太い血管から風船のように膨らんで飛び出したものをいいます。だんだん大きくなるとその動脈瘤の壁が薄くなり破裂します。そうなるとくも膜下出血を起こし、生命にかかわる非常に重篤な病気になります。脳動脈瘤が破裂してくも膜下出血になった患者さんには緊急な治療が必要です。また、脳動脈瘤が未破裂で発見された患者さんでも、動脈瘤の大きさ、形や場所などから破裂の危険性が高いと判断される場合は予防のために治療の対象になります。

 

治療方法脳動脈瘤の治療法は

脳動脈瘤の破裂(再破裂)を予防するためには脳動脈瘤に入り込む血流を遮断する必要があります。ひとつは従来から行われていますが、手術で開頭して顕微鏡で動脈瘤のちょうど首のところを小さなクリップで挟んで動脈瘤を遮断するクリッピング術という方法があります。もう一つは、血管内治療で血管の中からカテーテルという細い管を動脈瘤の中に誘導し、その中から細いコイルを出して動脈瘤の中を詰めていくコイル塞栓術という方法があります。

コイル塞栓術の適応は

直接動脈瘤にクリップをかけるのが脳動脈瘤に対する最も確実な方法ですが、動脈瘤のできた場所や大きさによっては手術の難易度が非常に高くなったり手術自体ができない場合もあります。また、全身の状態が悪くて長時間の手術ができない場合もあります。そのような場合に血管内治療という手法を用いたコイル塞栓術が良い適応になります。動脈瘤塞栓術の最大の利点は、開頭手術と違い脳に傷をつけないで治療が可能なため、低侵襲であることと、短時間で手術が終えられることです。したがって、ご高齢の患者さんには特に利点が多いと考えられます。ただし、動脈瘤の入口の部分が極端に広いものではコイルがうまく動脈瘤内に収まらないため塞栓術の適応になりにくく、また、動脈瘤から正常な血管が分かれて出ているタイプの動脈瘤は塞栓術では治療はできません。最終的には個々の患者さんの動脈瘤の形や場所、全身の状態などから総合的に判断して、より安全で確実な方法を選択する必要があります。

塞栓術はどのように行うのか

足の付け根の動脈からカテーテルという細い管を挿入し、レントゲン透視をみながら慎重に動脈瘤の中へ誘導します。動脈瘤の中に入ったカテーテルからプラチナ製のコイル(柔らかい金属の糸状のもの)を入れていきます。コイルは、大きさ、長さ、硬さが異なる100種類以上の中から選んで使用し、1本ずつ動脈瘤内に留置して電気で切り離していきます。コイルの大きさや長さが合わずうまく留置できないときは切断する前であれば引き戻すこともできます。コイルは何本も挿入しますが、もうそれ以上は入らなくなった時点で終了になります。

 

脳動脈瘤の入口が広い場合は塞栓術はできないのか

風船付きのカテーテルで動脈瘤の入口をふさぎながら詰めることで、ある程度入口が広いものでも十分に塞栓術を行うことができるようになりました。また、最近ではステント(金属の網の筒)を用いることで極端に入口の広いものでも塞栓術が可能になってきました。
コイル塞栓術に伴う合併症は
全般的には、脳に対する侵襲が少ないことから合併症は開頭手術より圧倒的に少ないと考えられます。しかし、重篤な合併症を引き起こすこともごくまれにあります。ひとつは塞栓術中に動脈瘤が破裂して出血することです。もう一つはコイルの近くで血栓ができることにより脳梗塞が起きることです。

治療後は

塞栓術の場合は動脈瘤の中が完全に充填されても、その後コイルが血流に押しやられて動脈瘤の中が再び空いてくる場合があります。その場合は再治療が必要になるため、定期的に経過をみる必要があります。
脳動脈瘤は一度破裂すると、たとえ治療がうまくいっても障がいが残る可能性があります。また破裂した動脈瘤の治療は治療自体の危険度も高くなります。したがって、破裂の危険の高い動脈瘤を抱える患者さんでは未破裂の状態で治療するのが理想的です。医療機器の発展によりコイル塞栓術の安全性と確実性が格段に向上した現在、開頭術では治療に対する抵抗が大きかった患者さんにおいてもよい治療法となるのではないでしょうか。

 

社団法人 佐久医師会
〒385-0052 佐久市原569-7
TEL0267-62-0442 FAX0267-63-3636
http://saku-ishikai.or.jp