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恐ろしい脳梗塞、 「心原性脳塞栓」から身を守りましょう

「月刊ぷらざ佐久平 平成23年7月号」掲載

ぴんころ地蔵佐久に住むようになってからピンピンコロリという言葉を知りました。「元気に健康で長生きをし、亡くなるときは苦しまずにコロリと逝くのが理想の往生」という意味のようです。最初に聞いたときに吹っ切れていて良い言葉だなあ、と思いました。多くの人も自分や家族もこのような最期を迎えたいと思うのではないでしょうか。また多くの方が一番心配するのは自分が病気になって自由が利かなくなること、そして家族の手を煩わせてしまうことのようです。今回はこれからの高齢社会の中で確実に増えると予想される脳梗塞、中でも危険な心原性脳塞栓(心臓が原因の脳梗塞)についてお話しします。

 

佐久市立国保浅間総合病院 内科(☎0267-67-2295) 樋口 陽 医師

 

樋口医師ある日突然…

数年前、国民的ヒーローだった元野球選手が突然この病に倒れ、日本中が衝撃を受けたことは記憶に新しいことかと思います。最近テレビでこの選手がリハビリの末、再び人々の前で歩き、話しているのを見てその超人的な克己心に感嘆するとともに、失ってしまったものの大きさに胸が詰まる思いをしました。脳梗塞はその人の人生を大きく変えてしまいます。

脳梗塞の原因

この病気の原因は不整脈です。不整脈の中に、心臓の心房という部屋が小刻みに震え心拍が乱れる「心房細動」と呼ばれるものがあります。心房細動が続くと心房の中で血液がよどみ、その一部が血栓(ゼリーのような固まり)になります。その血栓が何かの拍子に血流に乗って、脳を循環する血管を詰まらせると脳梗塞になります。こうなると皆さんがイメージする脳梗塞の症状、急に手足が動かなくなる、言葉が出なくなるなどの症状が出ます。これが心原性脳塞栓のメカニズムです。脳梗塞を起こしてもごく初期の段階で治療を行えば後遺症を残さないこともありますが、現実的には発症後すぐに病院にかかれる人は少数です。しかも心房細動で生じる血栓はサイズが大きく、広い範囲の脳梗塞を起こすため大きな後遺症を残すことが多いのです。現代の医学では残ってしまった麻痺などの障害を完全に治すことはできません。脳梗塞を起こす前の段階、つまり心房細動を早く見つけ、脳梗塞を起こさないように監視することが重要です。また心房細動は高血圧・肥満・糖尿病など生活習慣病で起こりやすくなります。
不整脈というと脈が乱れたり飛んだりする不快な症状のイメージがありますが、実際には自分では気づかないことも多くあります。また仮に心房細動があってもすぐには治療の必要がない場合もあります。危険な心房細動の早期発見に有効なのは健康診断です。健康診断は必ず受けましょう。

心原性脳塞栓の予防

心房細動の患者さんの中で高齢だったり、高血圧や糖尿病を患っている方は脳梗塞のリスクが上がることがわかっています。このような高リスクの方は抗凝固療法といって血液をサラサラにする治療が必要になります。現在最も広く用いられている薬がワルファリンです。ワルファリンの脳梗塞予防効果は長年の使用実績の中で明らかですが、内服中は納豆やホウレン草などを食べられないなどの欠点もあります。このようなワルファリンの欠点を改善した薬が今年になって使えるようになり、治療の幅が大きく広がっています。詳しくはかかりつけの医師にご相談ください。

相談しよう一歩前に食い止めよう

現在日本には約70万人の心房細動の患者さんがいると考えられています。10年後には100万人を超えると予想されています。現在の胃潰瘍の患者数が約60万人、気管支喘息の患者数が約100万人ですから、心房細動が今後いかにありふれた病気になるかお分かりになると思います。残念なことですが心房細動が原因で脳梗塞になってしまう人も着実に増えるでしょう。知らぬうちに体に忍び込んでいる病気をなるべく早く感知し、対応策を考えなければなりません。病気(脳梗塞・心房細動)になってから治療するのではなく、その一歩前の段階で病気を食い止めることが必要です。自分の健康はある程度自分で管理しなければならない時代です。与えられた寿命をできるだけ長く、しかも健康に生きるために脳梗塞の予防がとても重要です。生活習慣病を予防し、健康診断を受け、知りたいことはどんどん医師に聞きましょう。

 

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