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頚動脈狭窄症と言われたら

「月刊ぷらざ佐久平 平成24年8月号」掲載

落合 育雄 医師脳卒中は生命に関わることも多い、今までの生活を一変させうる病気です。闘うにはとても手強い相手ですが、当院では少しでもよい治療ができるようにチーム一丸となって、日々尽力いたしております。

佐久総合病院 脳神経外科(☎0267-82-3131)落合 育雄 医師

 

脳梗塞と頚動脈狭窄症

日本では脳卒中(脳出血、脳梗塞、くも膜下出血などの脳の血管の急な病気)で亡くなる方の約60〜70%が脳梗塞であると言われています。食生活の欧米化と高齢化により、太い血管の動脈硬化による脳梗塞(アテローム血栓性脳梗塞)の頻度が増加しています。頚動脈狭窄症は、そのほとんどが動脈硬化によって総頚動脈あるいは、頭蓋外内頚動脈が狭窄するもので、アテローム血栓性脳梗塞の重要な原因の一つです。
脳梗塞の方の10〜20%に頚動脈狭窄症がみられ、また65歳以上の健常者においても50%以上の中等度狭窄が5〜10%、80%以上の高度狭窄が1%程度の頻度でみられると言われています。現在日本の65歳以上の人口2400万人のうち、約200万人が中程度の、約20万人が高度の頚動脈狭窄を有するものと推定されます。

頚動脈狭窄症による脳梗塞発症のしくみ

頚動脈狭窄があると血圧の低下や、脱水、高度の貧血によって、直接脳の血流が低下することがあります。また、動脈硬化病変の破綻による血栓によって脳梗塞を発症する危険があります。めまいや失神発作を契機に頚動脈狭窄が発見されることがありますが、これらの症状が頚動脈狭窄のみを原因とする可能性は低いです。

頚動脈狭窄症の脳梗塞発症のリスク

脳梗塞などの症状がすでにある方(症候性)では、高度狭窄で2年間に26%、中等度狭窄で5年間に22%の方が次の脳梗塞を発症されることが知られています。ドックなどでたまたま見つかった症状のない方(無症候性)では脳梗塞のリスクは高度狭窄でも5年間で約11%であり、症候性の場合より明らかに低く、症状がない場合は個々の症例の全身状態や生命予後を十分に検討した上で治療方針を決定する必要があります。
治療について
治療の目的は、脳梗塞の予防です。内科的治療、外科的治療である頚動脈内膜剥離術、血管内治療である頚動脈ステント留置術が行われます。各治療法にはメリ
ットと問題点があり、過去の大人数を対象とした比較試験の結果を参考に治療指針が定められています。

内科的治療

内科的治療は抗血小板薬投与が最も重要です。この系統の薬剤を複数使用する場合は、出血合併症の危険性があり注意が必要です。その他、同時にコレステロールや糖尿病に対する薬剤が使用されます。内科的治療のメリットは、治療が容易で危険性が低く、脳梗塞以外に狭心症や、心筋梗塞、末梢血管疾患、腎血管疾患などの全身血管疾患にも有用であることであり、頚動脈狭窄症の治療の基本です。問題点は、症候性病変や高度狭窄病変では脳梗塞予防効果が不十分であることです。

治療法02頚動脈内膜剥離術(CEA)

細くなった頚動脈を直接手術で切開し、動脈硬化で厚くなった壁(プラーク)を取り除く手術です。内科的治療以外にはCEAが標準的治療であり、内科的治療と比較したメリットは、症候性病変や高度狭窄病変でも治療後の脳梗塞予防効果が高いことです。後述のCASと比較したメリットは、塞栓源となるプラークを除去できること、脆いプラークや硬いプラークでも治療可能であること、徐脈低治療法02血圧の遷延がないことです。内科的治療と比較した問題点は、周術期の脳卒中および心筋梗塞の危険性があることです。CASと比較すると、全身麻酔が必要で、狭窄の位置によっては到達が困難な場合があること、神経損傷による声帯の麻痺や、舌の麻痺の可能性があります。

頚動脈ステント留置術(CAS)

ステント

この治療法は切らずに頚動脈を太くする方法です。金属製のメッシュ状の筒(ステント)を用いて、細くなった頚動脈を広げます。血管の中から行う手術であるため血管内手術と呼ばれています。2008年より保険適応になった治療です。内科的治療と比較したメリットはCEAと同様で、CEAと比較したメリットは全身麻酔が必ずしも必要ではないこと、様々な合併症がある場合でも治療可能であること、CEA高危険群も治療可能であることです。問題点は①動脈硬化が強い場合、治療が困難な例があること、②徐脈低血圧が遷延する例があること、③プラークのステント内への逸脱があること、④硬い病変では拡張が不十分になること、などがあります。

病院の選び方

頚動脈狭窄症の治療は一見単純そうに見えますが、実は専門的で複雑な判断が必要となります。一つの病院にそれぞれの手術に卓越した医師や、両方の治療が実施できる医師、両方の知識を持つ医師がいるということが重要だと思います。心臓や、糖尿、腎臓病などの専門の内科医師の助言が得られることも非常に有益です。手術室や、術後の集中治療室、また一般病棟の看護スタッフのすみやかな連携、協力も必要です。血管内治療中は熟練した放射線技師の力も必要です。また、障害を負ってしまった場合には、脳卒中専門のリハビリテーションも必要になります。
このように、安全な頚動脈狭窄症の治療にはチームの力が不可欠なのです。 近年「血管内治療が可能」とうたう施設が増えてきていますが、 病院を選ばれる際には、その治療を行っているかどうかだけではなく、スタッフが充実しており、チーム力があるかどうかという点を確認するというのが、安心して治療を受けられる重要なポイントになると思います。

 

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