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「とびひ」の原因と治療について

「月刊ぷらざ佐久平 平成25年5月号」掲載

大倉 俊雄 院長
春から夏にかけて、皮膚科領域の感染症が増える季節です。今回は幼児や小児(とくに小学校低学年)に多くみられる表在性皮膚細菌感染症のうちの一つである「とびひ」(伝染性膿痂疹)について、その原因や病態、治療法、注意点などについてお話します。

 

おおくら皮フ科(☎0267-65-9915) 大倉 俊雄 院長

 

「とびひ」とは?

佐久平に待ち望んだ春が到来しました。日によっては時折汗ばむ気候です。今回は春から夏にかけて多くなる皮膚病の中で「とびひ」についてお話します。ちなみに「とびひ」とは「伝染性膿痂疹(でんせんせいのうかしん)」の俗称です。保育園や幼稚園に通っているお子さんをお持ちの方の中には、子供さんが罹患したり、知人から話を聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。
Igaku71_02『皮膚病アトラス』西山茂夫著「とびひ」とは皮膚の表面に細菌(特に黄色ブドウ球菌、あるいは化膿連鎖球菌〈溶連菌〉など)が感染した状態で、虫刺されやかぶれ、アトピー性皮膚炎、擦過傷などの先行病変に続いて発症します。皮膚症状はおもに「びらん」「水疱」で「浸出液」が出てきます。成人よりも皮膚の弱い幼小児に発症することがはるかに多いです。その細菌がどこから来るのかというと、罹病者の病変皮膚以外に、健常人の体にも(例えば鼻の中など)もともと少しは存在しており、それが虫さされなどを引っかいた皮膚、すなわちバリア機能を失った皮膚に付着することによって増殖して、皮膚表面を水疱化し、さらにはびらん化して「とびひ」となります。そして、一旦「とびひ」が発症すると、病変部には病原菌が極めて多数存在していますので、周囲の健康な皮膚にも広がっていきます。

 

プールはだめ「とびひ」になったら

「とびひ」と診断を受けた場合、接触による感染力がとても強いので、小学校や保育園、幼稚園はその重症度や発症部位によっては休ませなければならない場合があります。担当医の指示に従ってください。また、プールは禁止です。
治療は医療機関によって多少の違いはありますが、内服抗生物質と外用抗生物質入り軟膏を組み合わせることが多いです。ところが標準的な治療法を選択した場合でもなかなか改善しないことがあります。それは細菌の耐性菌化のために、我々が最初に出す抗生物質(ペニシリン系やセフェム系が多い)が効かない場合があるからです。耐性菌化というのは、新聞やテレビで肺炎や結核などにおいて「薬の効かない細菌が増えている!」などというニュースをご覧になったことがあると思いますが、それが「とびひ」の領域においても起こっているのです。通常、内服抗生物質が有効な場合は治療し始めてから3、4日もすれば改善傾向がはっきりするのですが、さらに病変が広がったりしていれば耐性菌を疑います。耐性菌の頻度は諸説ありますが、三割程度という報告などもあります。その場合は内服抗生物質の種類を変更するなどして対処します。また、「とびひ」が重症の場合には、初診時に細菌培養検査をしておくこともあります。

 

「とびひ」の発症に早く気付くために

ところで、「とびひ」の先行病変の多くが湿疹・皮膚炎群であるために、当初ステロイド軟膏を単独で使う場合がありますが、皮肉なことに、一旦「とびひ」が発症すると逆に塗れば塗るほど悪化してしまうことが多いです。ステロイド単独では細菌感染には無効です。むしろ細菌を増やしてしまいます。
では、どのようになったら「とびひ」を疑うべきかというと、例えば①持続的に黄色い「しる」(浸出液)が出てくる。②いままで、子供が「かゆい」と言っていたのに「とても痛い」と言い始めた。③1日単位で病変が周辺に散布(いわゆる飛び火)してきた。④いつも湿疹にもらっている軟膏を塗っても悪化する一方だ。等があれば「とびひ」かもしれません。最寄りの皮膚科や小児科を受診されることをお勧めします。

 

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