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腸管出血性大腸菌 食中毒から身を守ろう

「月刊ぷらざ佐久平 平成26年4月号」掲載

沖浜 裕司 医師今年の冬は、ノロウイルスによる集団食中毒が多数報道されていましたが、これからの季節はさらに細菌性の食中毒にも注意が必要です。
なかでも生肉などからの腸管出血性大腸菌による食中毒は、確認されただけでも毎年2,000~3,000人が発症し、重症化する例もあります。予防法を知っておきましょう。

 

三世会 金澤病院(☎0267-67-2048)沖浜 裕司 医師

 

 

腸管出血性大腸菌とは?

人や家畜の腸内にいる大腸菌は、そのほとんどが無害です。しかし中には下痢などを起こす病原性大腸菌があります。

病原性大腸菌のうち、 ベロ毒素を産生するものが「腸管出血性大腸菌」で、特に強い病原性を持っています。O157が最も有名ですが、 最近はO26、O111など、 別種の腸管出血性大腸菌による感染症が増加しています。

腸管出血性大腸菌は、飲食物を介した経口感染で広がります。菌に汚染された飲食物を摂取したり、患者(または無症状病原体保有者)の糞便に含まれる大腸菌が直接、または間接的に口から入ることによって感染します。この菌は非常に強力で、100個程度のわずかな菌数でも発症すると考えられています。

 

症状

無症状または風邪のような症状程度で済むことも多いのですが、典型的には、2~9日の潜伏期間の後、軽度の発熱・腹痛・水溶下痢などを起こし、しばしば血便が出ます。これはベロ毒素の作用のためです。

ときには発病の数日から2週間以内に、溶血性尿毒症症候群(HUS)や脳症などの合併症を起こします。合併症を起こせば高率で死に至ります。 特に子供や高齢者は重症化しやすいので気をつけてください。

 

治療

特効薬はありません。安静と水分補給が大切です。年齢・症状に応じた消化しやすい食事を摂取して自然に回復するのを待ちます。

症状が強くて経口摂取が出来ない場合は、点滴など入院治療が必要です。さらに溶血性尿毒症症候群(HUS)など合併症を併発した場合には、高度の集中治療が必要になります。

 

「食中毒かな?」と思ったら

日常的に使われる市販薬は、食中毒には逆効果をもたらすものもあります。特に、腸管の運動を抑える下痢止め薬・痛み止め薬の一部は、ベロ毒素の体外排出を抑えてしまいます。

「これはただの下痢じゃないかも。ひょっとして食中毒?」と思ったら、自分の判断で薬を服用せず、医師の診察を受けましょう。

 

予防の基本

食品の中心まで[75℃以上で1分以上]加熱すれば殺菌できます。危険なのは十分に加熱していない(できない)食品です。

肉類の生食(ユッケやレバ刺し)が危険であることはよく知られているでしょう。

ほかに原因になりやすいものは、ハンバーガー・ローストビーフ・生乳・アップルジュース・ヨーグルト・チーズ・発酵ソーセージ・調理トウモロコシ・マヨネーズ・レタス・生食用の発芽野菜(カイワレダイコン等)などです。その他さまざまな食材・調理済み食品から菌が見つかっています。

いったん十分に加熱された食品でも、人の手や調理器具を介して、菌が付くことがあります。衛生的な取扱いが大切です。

 

手洗いの励行

腸管出血性大腸菌は、低温では長く生き続けます。 二次感染の防止には手洗いが大切です。

排便後や下痢をしている人の世話をしたときは当然のこと、普段でも調理と食事の前には、石けんと流水で、爪の間・手首・肘までよく洗ってください。

発症していない感染者(自分がそうかもしれない!)が他人を感染させる可能性もあることに、十分注意を払いましょう。

 

ふだんの家庭での注意

生肉など菌で汚染されている可能性の高い食品は、中心まで十分に[75°C以上で1分以上]熱を加えてください。表面に焦げ目がついても食品の中心は意外と火が通らないものです。

生肉が触れたまな板・包丁・食器等はこまめに熱湯消毒します。霧吹きでアルコールを吹きかけるだけでなく、洗浄も必要です。手洗いの徹底はもちろんです。

 

患者さんがいる家庭では

入浴は避け、全員シャワーで済ませましょう。

患者さんが使用した寝間着やシーツなどは、家庭用の塩素系漂白剤に浸漬してから洗濯します。

逆性石鹸や70%アルコールによる拭き取り消毒なら、簡単で有効です。煮沸消毒できればさらに効果的です。

 

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